2026年1月、ナイロビでアパートを購入
本レポートの執筆時点(2026年)で、私はケニアに住んで12年目になる。小説『沈まぬ太陽』(山崎豊子)の主人公・恩地元がアフリカ(ケニア)を含む海外左遷に耐えた「足掛け8年」(モデルとなった小倉寛太郎氏は約10年)を、既に超えた。永住ビザも取得した。
仕事柄「ナイロビの不動産はポテンシャルがある」と人に語りつつ、自分で買ったことはなかった。「それも説得力がないな…」という思いと、30歳からほぼ海外のため年金納付もしていない(非居住者は任意加入)ので老後のために何かということで、2026年1月、ナイロビのKilimani(キリマニ)地区で建設中のアパートの1室 4ベッドルーム(230㎡)を、賃貸投資用として購入した。価格はKES 2,730万(約21.1万米ドル、約3,400万円)(1)。物件は建設中で、完成・引き渡しは2026年9月の予定。いわゆる「オフプラン(建設中物件の先行購入)」である。
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1. 為替は本稿を通じて1USD=KES129.25、1USD=161円(いずれも2026年7月17日時点の市場実勢。KESはCBK公表仲値ベース)で換算。KES建て金額の円換算は約1.25円/KES。
※本記事のウェビナーは10月に予定。その際に続編としてご報告する計画。
第34回AAICレポート連動型クイック・ウェビナー(2026年10月22日 木曜日 15時JST)開催のご案内 - AAIC Holdings
オフプランでの支払い方法:分割払い
今回の支払いは住宅ローンを使わない自己資金だが、一括払いではない。契約上のスケジュールは、契約時に20%、2026年4月末までに30%、9月末までに30%、残20%を完成時に、という分割払い(payment plan)だ。物件の下見をした日にLetter of Offerにサインし、そこから頭金20%の支払い期限が1週間と短く、お金をかき集めてなんとか支払った。
なお、オフプランでは「20%+工事期間中の分割」がケニアの標準形で、デベロッパーはこの買主の分割金を建設資金に充てる。
ちなみに契約書には米ドル建て支払いも可と明記されており、ドル資金を持つ買い手層を想定していることが窺える。



写真1:2026年1月、現地サイトにて。全体の完成模型(2~5ベッドとメゾネットで構成)。ground floorにはカフェや幼稚園が入る予定。アパートと隣の建物の壁の間は、人が数人通れるほどの幅(ランニングスペース)。部屋の写真は4ベッドのモデルルーム。中庭には「オリンピックサイズ(?)」のプール(筆者撮影)
その土地は、テニスコートだった
実はこの物件、筆者にとって因縁のある土地に建っている。ナイロビに来た当初、日本人会で週末にテニスをしていたコートがまさにこの土地だ。
オーナーは白人の高齢の地主で、何年も前に土地を手放し、コートは閉鎖された。それきり忘れていたのだが、今回エージェントのMr. Brian(ナイロビに赴任した時に物件の相談をした時からの付き合い)に連れられて物件を見に行くと、目の前に立ち上がりつつあるタワーは、まさにあのテニスコートの跡地だった。
これはめぐりあわせか、とかそういう話ではなく、ただ、「その土地を10年近く知っている」ことは、オフプラン購入では相当に私の判断に影響を与えた。周辺の治安、騒音、どんな人が歩いている界隈か、雨季の道路の様子──図面とショールームからは決して分からない情報をある程度持っていた。土地勘のある場所で不動産を買うのは一つだが、特にオフプランの意思決定では効いてくる。
図表1:購入物件(Kilimani・新築アパート)の価格表とユニット別単価(スプレッドシート「1_Property」参照)
| タイプ | 価格(KES) | 面積㎡ | ㎡単価 KES(円換算) | 坪単価 KES(円換算) |
| 2ベッド | 1,700万 | 125 | 約13.6万 (約17万円) | 約45.0万(約56万円) |
| 3ベッド | 2,400万 | 201 | 約11.9万 (約15万円) | 約39.5万 (約49万円) |
| 4ベッド (筆者購入)* | 2,730万~2,780万 | 230 | 約11.9万~12.1万(約15万円) | 約39.2万~40.0万(約49~50万円) |
| 5ベッド* | 3,450万~3,550万 | 302 | 約11.4万~11.8万(約14~15万円) | 約37.8万~38.9万(約47~48万円) |
| メゾネット(Duplex) | 6,500万 | 446 | 約14.6万 (約18万円) | 約48.2万(約60万円) |
注:坪単価=㎡単価×3.306。円換算は脚注1のレート。価格は筆者購入時点(2026年1月)の販売価格。*4ベッド・5ベッドはフロア(階数)により価格が異なるためレンジで表記(4ベッドは筆者購入の中・低層階が2,730万、高層階が2,780万)。

写真2:最上位ユニット「メゾネット」(446㎡)のモデルルーム。リビング(左)と階段のある上階(右)。KES 6,500万=約8,100万円で、階段付き2フロアの446㎡(筆者撮影)
㎡あたり約12万ケニアシリング、坪単価にして約49万円。東京23区の新築マンション(坪単価数百万円)に慣れた読者には安く映るだろう。だが「安いかどうか」は所得と比べて初めて意味を持つ。この点は後段で国際比較とあわせて検証したい。
そもそも外国人がケニアで不動産を買えるのか
結論から言えば、買える。
ただしケニア憲法(2010年)第65条により、非ケニア国民は土地をフリーホールド(完全所有権)では保有できず、最長99年のリースホールド(借地権)のみとなる(2)。99年リースは売買・相続・担保設定が可能で、実務上はほぼ所有権に近い。
アパートはSectional Properties Act 2020(区分所有法に相当)に基づき、専有部分の区分タイトル(sectional title)が登記される。筆者は永住ビザ保有者だがケニア国民ではないため、購入手続き上はあくまで「非citizen」であり、この99年ルールの対象である。なお、ケニアに住んでいない日本人も筆者と同様に購入可能である(ただし、購入前にKRA PIN〔納税者番号〕の取得〔代理人経由で可〕が必要なほか、賃貸収入への課税率が異なるなどの違いはある)。
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2.Constitution of Kenya 2010, Article 65;Land Registration Act 2012。解説はWKA Advocates「How Can a Foreigner Own Property in Kenya?」、Newpoint Properties「Foreign Property Ownership in Kenya: FAQ」等。
諸費用はあくまで今回の物件に関してだが、弁護士費用が売買価格の1.2%+VAT、リース登記の印紙税が4%(政府評価額ベース)、評価・測量・登記実費KES 4.7万、管理会社設立分担金、電気・水道メーター設置費、サービスチャージ12カ月分の前払い(4ベッドでKES 14.4万=月1.2万)など。合計すると物件価格の6~7%程度が購入時に上乗せされる計算になる。なお売却時には売主側に15%のキャピタルゲイン税がかかる。
なぜローンを組まなかったのか──金利16%の世界
日本に住んでいない筆者は、日本の金利1%台の住宅ローンをもはや借りられない。海外在住の日本人が、日本の銀行から住宅ローンを引くのは、ほぼ現実的でないのだ。特に、今回は海外の物件。ならば地元で借りればいいかというと、金利が高い。念のため、ケニアの大手銀行であるStandard Chartered Kenyaのモーゲージ計算ツールで試算してみた。例えばKES 2,000万を25年で借りると、月々の返済はKES 28.4万(約35万円)、支払利息の総額はKES 6,508万──元本の3倍を超える。逆算すると実効金利は年16.75%前後だ(3)。政府系KMRC(住宅金融公社に相当)経由の優遇ローンなら9.5%まで下がるが、対象はアフォーダブル住宅が中心で融資上限もKES 1,050万。というわけで、今回は自己資金での購入となった。


写真3:Standard Charteredのモーゲージ計算画面。借入KES 2,000万・25年で月額KES 283,599、総利息KES 6,508万(筆者スクリーンショット、2026年7月)
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3. Standard Chartered Kenya(sc.com/ke/mortgages)のMortgage Calculator(2026年7月時点):借入KES 20,000,000・25年で月額KES 283,599、総利息KES 65,079,823。この返済額から逆算した実効年率は約16.75%。同行サイトはKMRC提携の優遇住宅ローンを年9.5%と表示している。
これは筆者個人の事情ではなく、ケニアの構造そのものだ。ケニアの住宅ローン口座数は国全体で約2.7万件。人口5,333万人(2025年、KNBS推計)、世帯数にして約1,214万世帯(2019年国勢調査。2030年には1,590万世帯へ増加見込み)の国で、である(4)。住宅ローンを抱える世帯は500世帯に1世帯もいない。デベロッパーは買主の分割金で建て、買主は貯蓄・事業収入・海外送金で買う。この低レバレッジ構造は、信用収縮による暴落が起きにくい半面、価格が現金の量に強く制約されることを意味し、後述する価格動向の前提になる。
ナイロビの住宅価格はどう動いてきたか
HassConsult(ナイロビ大手不動産会社)によれば、ケニアの住宅価格は2000年以降で+425%、つまり約5.3倍になった。公的な住宅価格統計が乏しいケニアで、同社が2000年から公表し続けている四半期指数は、メディアや金融機関が広く引用する事実上の標準指標である。同社が比較した米国(+201%)、フランス(+151%)、シンガポール(+122%)を大きく上回り、2025年6月までの1年でも+7.8%と比較9市場中トップだった(5)。日本はどうか。国土交通省の不動産価格指数(2000年の数字は取れず、2010年=100とする)では、2025年末時点で住宅総合148、住宅地はわずか115。上がったのはマンションで約2.1倍(6)。なお、基準年を日本の指数に合わせて2010年に置き直すと、ケニアの2010年→2025年は約1.7~1.8倍(Hass長期グラフからの読み取り概算)。日本の住宅総合(1.48倍)・住宅地(1.15倍)を上回る一方、東京圏で急騰したマンション(約2.1倍)には届かない。ケニアの上昇が2000年代~2010年代前半に集中していたこと、そして足元の日本のマンション高騰がいかに急だったかが、同時に見えてくる。
市場の構造変化も著しい。2001年にはナイロビの売買市場に占めるアパートの割合は23.5%だったが、現在は71.1%。四半世紀で「戸建ての市場」から「アパートの市場」に転換した(7)。かつて庭付き一戸建てが並んでいたKilimaniやKileleshwaの高層化がその象徴である。
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4. 住宅ローン口座数:CBK統計(2021年26,723件。Cytonn「KMRC Update」)。残高はKES 2,815億(約22億ドル・約3,500億円。KMRC「State of the Banking Mortgage Market」)。人口・世帯数:KNBS 2019 Kenya Population and Housing Census(人口4,756万人・世帯1,214万・平均世帯規模3.9人)、2025年人口はKNBS公式推計5,333万人、2030年世帯数推計はKNBS Population Projections。
5. HassConsult Special Report 2025(www.hassconsult.com/hassindex)。
6.国土交通省「不動産価格指数(住宅)」:住宅総合148.0(2025年12月・季節調整済)、住宅地115.3・マンション210.7(2025年1月)、南関東マンション218.1(2025年9月、長谷工総合研究所集計)。日本の指数は2010年基準のため、2000年基準のケニア(Hass)は基準年が異なる点に注意(2000~2010年の日本の住宅価格は、住宅地の公示地価が累計2割前後下落する一方、首都圏マンション価格はほぼ横ばいだった)。ケニアの2010年→2025年の倍率(約1.7~1.8倍)は、Hass長期グラフの2010年時点の読み取り値(2000年比およそ3倍)に基づく筆者概算。
7. HassConsult(Afriqahome「Kenya Real Estate 2026」集計)。賃貸市場のアパート比率も45.3%→66.1%。

写真4:高層化するNairobiの街並み(筆者撮影)
ただし足元は「二極化」
ケニアの住宅価格は2000年以降で約5.3倍、という他国を上回る上昇傾向がみられる一方で、直近の足元情勢ではエリア・物件ごとに「二極化」が進んでいる。
- 高価格帯アパートの密集地(Westlands、Kileleshwa、Parklandsなど):建設ラッシュの供給過剰で価格は前年比7~11.5%下落(Westlands -11.5%、Kileleshwa -10.3%など)。空室が目立ち、家賃も軟化(8)
- 戸建て・低密度エリア(Karen、Runda、Lavington等):供給が限られ堅調。2026年Q1もLavington +4.2%、Kilimani(戸建て)+3.9%と上昇
- 衛星都市(Ruaka、Syokimau、Juja等):中間層の実需で土地が5年で+50%と急騰した後、2025年後半から減速(後述)
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8. HassConsult四半期データ(Afriqahome集計、2025年)。

地図1:ナイロビ市内の主要エリア(Google Map)
ナイロビ市内のマンションの供給ラッシュは、街を車で走るだけでも体感できる。
ナイロビ市内の幹線沿いには、新築アパートの巨大な販売看板が数百メートルおきに立ち並ぶ。Canopy Kilimani(2~3ベッド・KES 1,000万から)、Blossoms IVY(1,800万から)、Cheval Riverside(1~2ベッド・950万から)、Luster Arbor(500万から)──並べてみると9割方が1~2ベッドの小型・投資家向けユニットで、価格帯はKES 500万~1,000万に集中している(9)。つまり「供給過剰」の正体は、正確には小型投資ユニットの供給過剰だ。裏を返せば、ファミリー向けの4ベッドは、この供給ラッシュの中でも希少なセグメントであるといえる。

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9.2026年6~7月にナイロビ市内で筆者が撮影した屋外販売広告より。掲載価格・間取りは各広告の表示による。
写真5:ナイロビ市内に林立する新築アパートの販売看板。ほぼすべてが1~2ベッドの小型ユニット訴求だ。なお、こんなにゴージャスな出来上がりはこれまで見たことがないが……(筆者撮影、2026年7月)
私が今回の物件を購入した理由は次の2点に整理できる。
■ なぜオフプランで買ったのか
第一に、価格である。オフプランは完成物件より1~2割安く売り出されるのがケニアの通例で、営業からも「完成すれば1~2割は上がる」と言われた。営業トークを割り引いても、HassConsultが主要オフプラン8案件を分析したところ、2025年の平均リターンは18.1%だった(10)。これは転売による実現益ではなく、発売時価格からの値上がり(工事が進み完成物件の相場に近づくことで生じる評価益)ベースの数字だが、統計でも概ね正しいと言える。第二に、立地の希少性だ。Kilimaniの中でも静かな住宅街区で、2.5エーカーの敷地がまとまって出ること自体が稀になっている。ただし、オフプラン特有のリスクもあることは後段で述べる。
■ 家賃と利回り:筆者の物件で試算
賃貸市場は堅調で、2025年Q4のナイロビ平均グロス利回りは7.4%と2007年以来の高水準にある(11)。筆者の物件の家賃(家具なしを想定)は最低でも月KES 25万(約1,900ドル・約31万円)を想定している。根拠は、例えば同じデベロッパーが手掛けた完成済みの類似物件、Royal Oaks Residency(Kilimani/Lavington境、4ベッド246㎡)が家具付き月KES 30万で賃貸に出ていることだ。
月KES 25万なら年間家賃はKES 300万。購入価格KES 2,730万に対しグロス利回り11.0%となる。ここからサービスチャージ(月1.2万)、管理料や空室を差し引いたネットでも8~9%は残る計算だ(12)。市場平均のグロス7.4%を上回るのは、「完成前の価格」で買ったからであり、逆に言えばこの差分こそがオフプランのリスクプレミアムである。
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10. HassConsult Special Report 2025(8案件の平均ROI 18.06%。発売時からの価格上昇率ベース)。
11. HassConsult Q4 2025。なお公表されている利回り統計はグロス(年間家賃÷物件価格)ベースが基本で、市場全体のネット利回りの公式統計はない。
12. HassConsult Q4 2025。なお公表されている利回り統計はグロス(年間家賃÷物件価格)ベースが基本で、市場全体のネット利回りの公式統計はない。
「高い」のか「安い」のか──購買力で見る
冒頭の問いに戻る。図表1でも示したように、坪49万円は安いのか。
名目価格では安い。だが所得と比べると景色が変わる。米国の物件が高くても米国の給料も高いように、価格は購買力とセットで見なければ実態を見誤る。Numbeo(世界最大級のクラウドソース型・生活コストデータベース)の価格年収倍率(都心アパート価格÷世帯可処分所得)で見ると、ナイロビは14.1倍。東京の16.3倍に迫り、クアラルンプール(8.7倍)やヨハネスブルク(2.7倍)を大きく上回る(13)。つまりこの市場の買い手は「平均的なケニア人」ではない。
誰が買っているのか:デベロッパーに聞いてみた
契約の過程でデベロッパーの販売担当に「他にどんな人が買っているのか」と聞いたところ、面白い答えが返ってきた。曰く、ソマリア人、エチオピア人、スーダン人、タンザニア人。そして最近増えているのが「トランプ政権の移民政策の影響で米国からの帰国を見据えたケニア人」だという。
ケニア人を除き共通するのは、自国に信頼できる投資先(reliableな銀行、通貨、不動産登記)を持たない人々にとって、ナイロビの不動産が「東アフリカ広域の資産保全先」として機能しているという構図だ。ナイロビの高価格帯住宅の需要は、ケニア一国の所得水準ではなく、周辺国の政情と米国の移民政策まで含めた広域の資金フローで決まっている。
これに国連の動きが重なる。UN80改革の一環で、UNICEF・UNFPA・UN Womenの本部機能を2026年末までにナイロビへ移す計画が進んでいる。移転規模は報道により幅があり、「国際職員800人+家族」から「2026年末までに約2,000人」まで諸説ある。規模の確定値ははっきりしないが、UNをはじめとした国際職員の増加がナイロビ市内(Gigiri、Westlands、Kilimaniなど)の賃貸需要に影響しているだろう。
土地の値段:エーカー5.5億シリング、坪56万円の世界
ナイロビの土地価格は伝統的に「1エーカー(約4,047㎡=約1,224坪)あたり」で語られる。HassConsultの土地価格指数(2025年Q3)によれば、最高値はUpper Hill(新金融街)のエーカーあたりKES 5.55億(約430万ドル・約6.9億円)。坪単価に直すと約45.3万KES=約56万円/坪だ。以下、Kilimani 4.23億(約43万円/坪)、Muthangari 4.01億、Riverside 3.61億と続く(14)。東京の商業地とは比べるべくもないが、日本の地方中核都市の住宅地と同水準の地価が、一人当たりGDP 2,000ドル強の国の首都に成立していることになる。
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13.Numbeo Property Prices(2026年7月時点、各都市ページ)。ナイロビの平均手取り月収はKES 5.6万程度(Numbeo)。
14.HassConsult Land Price Index Q3 2025(Capital FM報道、2025年10月28日)。坪換算は1エーカー=1,224.2坪で筆者計算。

図表2:ナイロビ主要エリアの土地価格(エーカー・坪・円換算)
なぜKilimaniは高層化するのか──土地代の割り算
Kilimaniの土地は1㎡あたり約10.4万KES。アパートの販売価格は1㎡あたり約12万KESである。ここで仮に、1,000㎡の土地に延床1,000㎡の低層住宅を建てて売るとしよう。売上は12万×1,000㎡=1.2億だが、土地代だけで10.4万×1,000㎡=1.04億かかる。建築費を払う前に売上の9割が土地代に消え、事業は成立しない。ところが19階建てで延床6,000㎡(土地の6倍)を建てれば、販売床1㎡が背負う土地代は10.4万÷6=約1.7万KES、販売価格の15%程度まで薄まる。つまり「1フロアではトントン(どころか大赤字)、高く積むほど土地代が薄まる」──地価がこの水準に達した時点で、Kilimaniに低層を建てる経済的選択肢は消えた。これが数年で街の景観を一変させた高層化ラッシュの正体であり、本物件が19階建てである理由でもある(15)。
一方、衛星都市(Ruaka、Kitengela、Syokimau、Ngongなど14タウン)の平均地価はエーカーKES 3,300万(坪約3.4万円)。10年で2倍、直近5年で+50%と急騰してきたが、2026年3月までの1年は+4.3%(前年+9.9%)へ減速した(16)。
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15. 筆者計算。容積率・共用部等は捨象した概算。
16.Business Daily「Nairobi satellite land boom slows」(2026年5月、HassConsult分析)。平均価格は2016年1,600万→2021年2,200万→2026年3,300万KES/エーカー。Ruakaが1.13億で最高、Kiserianが1,350万で最安。

地図2:ナイロビ周辺の衛星都市(筆者作成の模式図。位置・道路は概略)
「土地神話」に金利の重力がかかり始めた
この減速を理解する鍵は国債利回りだ。ケニアの短期金利はジェットコースターのように動いてきた。91日物T-billは2024年3月に16.7%でピークを打ち、中央銀行が政策金利を13.0%から8.75%まで10会合連続で引き下げる中で2026年4月に7.4%まで低下、足元はインフレ再燃(6月6.4%)で8.8%に反発している。10年国債は12.4%、直近の25年債の落札利回りは15.1%だ(17)。土地の年間上昇率4.3%は、無リスクの国債利回りを下回る。
なお都心側ではゾーニング(用途地域)を巡る摩擦も投資の変数になっている。Kilimani、Kileleshwa、Parklandsでは高層化を可能にした規制緩和に住民団体の反発が強まり、道路・下水が追いつかないまま密度だけが上がることへの懸念から、開発許認可の不確実性が増している(18)。
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17. Kenyan Wallstreet(2026年5月)、Trading Economics(10年債12.39%、2026年7月8日)、Serrari Group(2026年7月国債入札:25年債の直近要求利回り15.1%、91日8.83%・182日8.96%)、CBK Weekly Bulletin(インフレ6.4%、2026年6月)。
18. Business Daily(前掲、2026年5月):HassConsultは「県レベルの計画承認を巡る不確実性と住民団体の反対でデベロッパーの土地需要が減速」と指摘。
誰が作っているのか:売主は浙江Estate Limited
では、筆者のアパートは誰が作っているのか。契約書の売主名にはこうある──Zhejiang Estate Limited。浙江(Zhejiang)は中国の省名だ。同社は完成済みのRoyal Oaks Residencyと同じ開発主体で、貿易データベースには中国からタイル・家具・衛生陶器を69船積み輸入した記録が残る(19)。内装材まで本国から自社輸入する──後述する中国系デベロッパーの垂直統合の教科書のような実例だ。冒頭の写真1に掲げたショールームの完成模型が「A栋」「室外咖啡厅」と中英併記だったのが目に留まった読者もいるだろう。
ナイロビの建設現場を回ると、中国系(中国語や中国人)が目立つ。道路や鉄道だけでなく民間不動産開発でも登場している。代表例を挙げる。
- Erdemann Property:1993年からナイロビ在住の楊澤云(Yang Zeyun)氏が2002年に不動産開発へ参入。中国開発銀行の融資も活用した「Great Wall Apartments」(528戸)を皮切りに、ナイロビ市内では34階建て×8棟・2,720戸の「River Estate」など中低価格帯の大量供給(なお同案件は2023年、資金難による工事停滞が報じられた)(20)
- AVIC International(中国航空技術国際):Westlandsの複合開発「GTC」に約400億KES(約3.1億ドル・約500億円)を投資。184mのタワーにJW Marriottが入る、現在のスカイラインの象徴
- China Wu Yi:施工大手。Athi Riverにプレハブ建材工場を持ち、建材の川上まで押さえる
- China State Construction(中国建築):政府アフォーダブル住宅のパイロット「Park Road」(Ngara、第1期228戸)を2020年に引き渡し
中国系の強みは、①建設と販売(そして本件のように内装材輸入まで)を一体で手掛ける垂直統合、②本国調達によるコスト競争力、③中国系金融へのアクセス、の3点に集約される。
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19.輸入記録はVolza(Zhejiang Estate Limited:中国等5社から69シップメント、HSコード6907(タイル)・9403(家具)・6910(衛生陶器)等、2025年8月時点)。
20.The Standard「Why Chinese firms rule Kenya’s real estate market」、People Daily「How Chinese developers are redrawing Kenya’s skyline」、China Perspectives誌の学術論文(Erdemann/China Wu Yi/中国開発銀行の資金スキーム分析)。River Estateの工事停滞はDaily Nation「Erdemann’s Sh7bn, 2,720-house plan stalls」(2023年3月)。
オフプランの光と影:18%のリターンと、消えたデベロッパー
オフプランはケニアの不動産取得の主流だが、リスクも本物だ。過去にはSuraya Property GroupやBanda Homesといった著名デベロッパーの頓挫で、買主の資金が数十億KES(=数十億円)規模で宙に浮いた(21)。ケニアにはオフプラン販売のエスクロー(預り金分別管理)義務がなく、買主の分割金はそのまま建設資金に回る。登記前の買主は法的には「登記された権利者」ではなく「契約上の期待権者」に過ぎず、プロジェクトの土地に銀行担保が付いていれば銀行の権利が優先するというのが裁判所の一貫した立場だ。デベロッパー規制の強化法案も国会で棚上げされている。
自分の契約書には完成期日は「建築士が実質竣工証明書を発行してから21日」としか書かれておらず、カレンダー上の期日(sunset date)が固定されていない。買主都合で完済できなければ、売買契約後は購入価格の10%が違約金として没収される。遅延利息は年24%。オフプランの契約は基本的に売主に有利に書かれている、というのが当事者としての実感だ。
商業用不動産:オフィスは「テナントの市場」から回復へ
住宅だけでなく商業用にも触れておく。ナイロビのオフィス市場は2010年代の建設ラッシュの後遺症で長く供給過剰に苦しんできたが、Cytonnによれば過剰在庫は2024年の570万sqftから2025年末に340万sqftへ縮小、空室率は19.3%から15.3%に改善した。平均賃料は月KES 105/sqft(月・坪あたり約4,700円)、平均利回りは7.8%。ノード別ではWestlandsが8.5%でトップだ(22)。回復を牽引するのは「質への逃避」で、ESG認証を備えたGrade Aビル(GTC、The Mandrake、Purple Tower等)のプライム稼働率は2025年末に81.6%まで上昇する一方、旧式ビルは値引きとフリーレントでテナントをつなぎ止めている(23)。国連機関と多国籍企業の地域統括を抱えるナイロビのオフィス市場の厚みはサブサハラで南アに次ぎ、「東アフリカのハブ」の座は当面揺るがないだろう。
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21. BuyRentKenya「Why Are Kenyans Shying Away from Buying Off-Plan Houses?」(2024年)ほか報道多数。
22. Cytonn「Nairobi Metropolitan Area Commercial Office Report 2025」および2025年末データ(The Standard報道、2026年5月)。
23.Knight Frank Kenya(H1 2025 Market Update、Mark Dunford CEOコメント)。2027-28年に約250万sqftの新規供給パイプライン。
国策としての住宅:Housing Levyの現在地
マクロを語るうえで、ルト政権の看板政策「アフォーダブル住宅プログラム(AHP)」は外せない。2023年から給与の1.5%(雇用主も同率負担)を強制徴収するHousing Levy(住宅税)が導入され、2024/25年度の徴収額はKES 732億(約5.7億ドル・約910億円)と目標を上回った。一方で完成戸数は2022年7月~2025年6月の3年間で2,075戸(政府予算資料)にとどまり、「年間20万戸」の目標に対し大幅に遅れている。徴収額の約半分が使途未定のまま短期国債で運用されているとの国会報告もある(24)。政府は「24万戸が建設中」「2025年12月にMukuruで4,536戸引き渡し」と成果を強調しており、2026年以降に引き渡しが加速するかが焦点だ。民間市場への含意は二つある。年間数百億KESの官製建設需要が建材と雇用を下支えしていること、そして低価格帯(KES 100万~400万)の官製供給が本格化すれば衛星都市の民間低価格住宅と競合し得ることだ。
ナイロビは高いのか安いのか:東京、KL、カイロ、南アと比べる
他国の都市とも比較してみる。Numbeo(2026年時点)を軸に、都心アパートの㎡単価、グロス利回り、住宅ローン金利、価格年収倍率を並べた(25)。
図表3:主要都市の住宅価格・利回り・金利比較
| 都市 | 都心㎡単価(USD) | 同(万円) | 利回り(都心) | ローン金利 | 価格/年収 |
| ナイロビ | 約1,550 | 約25 | 7.5% | 14.7% | 14.1倍 |
| 東京 | 約10,600 | 約170 | 2.7% | 2.0% | 16.3倍 |
| クアラルンプール | 約3,800 | 約61 | 3.9% | 4.5% | 8.7倍 |
| カイロ | 約890 | 約14 | 5.9% | 15.9% | 17.4倍 |
| ヨハネスブルク | 約1,050 | 約17 | 11.5% | 10.9% | 2.7倍 |
| ケープタウン | 約2,290 | 約37 | 8.1% | 11.9% | 5.5倍 |
| ラゴス (VI/Ikoyi中心) | 約3,300 | 約53 | 7.0% | 18.1% | n/a |
出所:Numbeo(脚注参照)。換算は脚注1のレート+USD/MYR 4.10・USD/EGP 50.5・USD/ZAR 16.5(2026年7月17日時点)。
この表から読み取れることを3つ挙げたい。
- 名目価格ではナイロビ(㎡25万円)は東京(170万円)の約7分の1、KLの半分以下。だが価格年収倍率では14.0倍と東京(16.3倍)に迫る。「名目は安いが、住む人の所得対比では東京並みに高い」──これがナイロビの実像だ
- 利回りと金利の関係が市場の性格を決める。東京は利回り2.7%>金利2.0%が僅差で、低金利のレバレッジが効く市場。ヨハネスブルクは利回り11.5%>金利10.9%で家賃が投資を正当化する。ナイロビとカイロは利回りが金利を5~10ポイント下回る「逆ザヤ」で、ローンでの購入は厳しい。
- 南アの安さは際立つ。ヨハネスブルクの価格年収倍率2.7倍は先進国基準でも「割安」で、2008年以降の長期停滞と資本流出、都心の空洞化(企業・住民のケープタウンへの流出)が価格を実質ベースで抑え込んできたと考えられる。同じアフリカでも、成長を買うナイロビと、利回りを買う南アでは投資のロジックは異なる
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24. Business Daily(2025年11月:FY2024/25徴収KES 73.2bn、目標63.2bn)、Nairobi Wire(2025年12月:政府予算資料ベースの完成2,075戸、建設中62,123戸・進捗32%ほか)、Daily Nation(2026年4月:Boma Yangu登録81.7万人の約8割が拠出ゼロ)。
25.Numbeo Property Prices各都市ページ(2026年7月時点閲覧。Cape Townのみ2024年7月更新とやや古い)。クラウドソースデータのためサンプルの偏りに注意(Lagosは65件・VI/Ikoyi等高級地区に偏る。ラゴスの価格年収倍率は給与データの偏りで異常値となるため非表示)。南ア・マレーシア・エジプトの㎡単価は現地通貨建てデータを2026年7月17日の為替で換算しているため、為替次第で数%変動する。
まとめ:ナイロビ不動産を貫く3つの構造
- 現金が主役の市場:住宅ローンは約2.7万件、1,200万世帯の0.2%。金利16%の世界ではローンは機能せず、価格は貯蓄・事業収入・ディアスポラ送金・周辺国からの資産保全マネーの量で決まる
- 供給の主役交代:売買市場の7割がアパートに。作り手は中国系が存在感を増し、高価格帯は局地的供給過剰(需要は安定)、中低価格帯はケニア全体では官民とも慢性的供給不足(ナイロビ市内の一部は既存プロジェクトが一通り完成した後は供給過剰が予想される)
- 土地神話の転換点:衛星都市の地価上昇率(+4.3%)は国債利回り(8~15%)を下回り始めた。「土地は絶対」の時代から、立地・利回り・出口を選別する時代へ
写真6:2026年6月の建設現場。1月にはモデルルームしか入れなかったが、購入した物件も概ね内装が完了(左)、プールは水張りとタイル・敷石まで完了(右)。契約した1月時点ではプールはタイル貼りの最中だった。工事の進捗を自分の目で確かめられる距離に住んでいることも、オフプランではリスク管理である。とはいえ、工事が進んでなかった場合にできることも限られるが……(筆者撮影)
引き渡しは2カ月後の9月予定(気持ち的には年内に受け取れればいいなと考えている)。予定通りに鍵(キー)を受け取れたのか、内装は図面通りだったのか、想定家賃で借り手はつきそうなのか。本記事のウェビナーは10月に予定しているので、続編としてご報告する。工事が止まっていれば、「やっぱりケニアだね」と皆さんと笑いながら振り返りたい(家庭内では全く笑い事ではすまないが)。それもアフリカで事業をたり、生活をしたりする醐味である。
ディスクレーマー:本稿は筆者個人の体験と公開情報に基づく市場分析であり、特定の不動産・金融商品の取得を推奨・勧誘するものではありません。記載のデータは執筆時点の公開情報に基づくもので、その正確性・完全性を保証するものではありません。不動産の取得に際しては、必ずご自身で弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。
文章:石田 宏樹(AAIC ケニア法人代表/エジプト法人取締役)
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