AAIC|Asia Africa Investment & Consulting

アフリカにおける事業成長のポイント~グローバル企業の事例をもとに~

“ラスト・フロンティア”として注目が高まるアフリカ市場。これまで多くの日本企業が欧米やアジア市場に進出・事業を広げてきた中で、次はアフリカへ、と参入を検討される企業も多いのではないかと思います。一方で、数々の国・地域で事業を成功させてきた企業であっても、「ではアフリカでどのように事業を成長させていくべきなのか」、という手がかりを掴むことは簡単にはいかないのではないでしょうか。

今回は、日本企業がアフリカに進出し事業を成長させていくためのポイントを、欧米企業の事例を参考にしながら見ていきたいと思います。尚、今回のレポートは、2024年4月24日に実施させていただいた「AAIC15周年春セミナー」での講演資料をもとに作成しています。

アフリカでのビジネス展開における3つのポイント

まずいきなりですが、アフリカ市場で事業を成長させていくために重要な点は何でしょうか。これはもちろん確たる正解がある問ではないですが、ここでは下記の3つを挙げて進めていきたいと思います。

①中長期での経営のコミットメント

②各国市場の成長・成熟度を踏まえた戦略策定・オペレーションの構築

③成長の障壁やリスク要因の理解と対策

中長期での経営のコミットメント

まず1つ目は、「中長期での経営のコミットメント」です。アフリカは今後の成長が期待される市場ではあるものの、現状の経済水準で見れば、南ア以外は数十年前の東南アジア諸国相当で、まだ発展途上な市場であるといえます。下記はアフリカで「Big 4」と呼ばれる、特に経済規模が大きな4カ国、南アフリカ、ナイジェリア、エジプト、ケニアについて現在と2030年予測の経済指標を、加えてタイとインドネシアの現在の経済指標を示したものです。1人あたりGDPの水準で見ると、2030年の南アと現在のタイ、2030年のエジプトと現在のインドネシアが同程度であることが分かります。また、右側には、アジア新興国諸国の1人あたりGDPが、Big 4の現在の水準に達したのがいつなのかを示しています。これを見ると、アフリカで最も1人当たりGDPが高い南アフリカでタイの2015年水準、2億人を超える人口で消費市場として注目されるナイジェリアでは、タイの1980年水準、インドネシアの1990年水準と、数十年単位のギャップがあることが分かります。

そのため、アフリカ諸国は“ポテンシャルの高い市場”ではあるものの、現在の東南アジア諸国等と比較してしまうとどうしても見劣りしてしまい、投資の優先度をあげることが難しくなってしまったり、進出しても、すぐには思うような収益水準に達さずに事業縮小・撤退の判断になってしまいがちな市場です。ですが、そうではなく、10年後、20年後の成長を見据えて投資をし、中長期の目線で腰を据えて取り組んでいくべき市場だという点は、実は見落としがちな点なのではないかと思います。

②各国市場の成長・成熟度を踏まえた戦略策定・オペレーションの構築

次に、「各国市場の成長・成熟度を踏まえた戦略策定・オペレーションの構築」です。アフリカはどうしても”アフリカ“と一口で表されてしまいがちですが、欧州、アメリカ、中国、インドを足した面積をさらに超える巨大な大陸に54の国が存在しており、経済水準やビジネスの成熟度、商慣習等、各国それぞれが独自のものを有しています。そのため、市場への参入を検討する際には、その国×事業領域がどのような様相を呈しているのか、その特徴を生々しく捉えた上で、戦略やオペレーションに反映していくことが重要になります。

例えば下記は、前述のBig 4について、マクロ指標と商流の特徴、及び競争環境を簡単にまとめたものです。

 

マクロ指標だけで見ても、アフリカのGDP規模トップ2の南アフリカとナイジェリアはGDP規模こそほぼ同程度ですが、1人あたりGDPと人口に分解すると、南アフリカは東南アジア諸国並の1人あたりGDP水準を誇るのに対し、ナイジェリアは2.2億人を超える人口に支えられてのGDP規模だということが分かります。

また、商流・流通構造にも各国で違いが見られます。例えば南アフリカは2,000店舗以上を有する大手小売りチェーンが複数存在し、こういったモダンリテールが小売の主流チャネルです。製品の流通構造も、メーカーや輸入代理店から(卸を経て)小売店へと流れるシンプルな構造です。対してナイジェリアはというと、“オープンマーケット”と呼ばれる市場が依然小売の主流チャネルであり、流通構造も、卸が何層にもなっていたり、卸が市場に店を構えて小売の機能も担っていたりと、複層的で曖昧な流通構造になっています。そのため、自社の製品をどのように流通させ、どこで販売すべきか、といった検討に際しては、現地の実態を良く理解した上で、各国の特徴を踏まえて戦略・オペレーションの策定・構築を進めていくことが重要です。

成長の障壁やリスク要因の理解と対策

最後に「成長の障壁やリスク要因の理解と対策」です。アフリカに限った話ではないですが、海外に進出するにあたっては、様々なリスクを理解の上、それらに対する対策を事前に講じておくことも重要になります。具体例は下記の図に譲りますが、障壁やリスクがあることを前提に、先手先手の対策を講じながら持続的なビジネスモデルを構築していくことが必要です。

【具体例】コカ・コーラ社の展開事例

では、こういった特徴を踏まえ、既にアフリカに進出・事業を成長させている企業は、どのような戦い方をしてきているのでしょうか。今回は、コカ・コーラ社の事例をご紹介したいと思います。

コカ・コーラ社といえば、誰もが知るグローバルカンパニーですが、アフリカでも高いプレゼンスを誇っています。1928年に南アフリカに進出し、その後Big 4の4ヶ国で見ると、エジプトに1942年、ケニアに1948年、ナイジェリアに1951年と早い時期からアフリカ諸国に進出し、現在はアフリカのほぼ全域で商品を販売しています。また、マーケットシェアも高く、Big 4で見ると、エジプト以外の3カ国において、炭酸飲料市場において50%以上のシェアを占めています。尚、エジプトではペプシがシェアトップで、コカ・コーラは2番手です。

まず、先述した3つのポイントに沿って、コカ・コーラ社のアフリカ戦略をまとめてみます。

特徴1:現地のニーズに応じた地域向けのラインナップ

ここでは特に2つ目、「各国市場の成長・成熟度を踏まえた戦略策定・オペレーションの構築」について詳しく見ていきます。

下記は、Big 4の4カ国について、コカ・コーラ社の製品ラインナップをまとめたものです。これを見ると、コカ・コーラやスプライト、ファンタといったグローバルブランドに加え、複数のリージョナル・ローカルブランドがあることが分かります。例えば、「Stoney」は南アフリカの伝統的な飲料であるジンジャービール“Gemere”にヒントを得て作られたブランドで、また、「Predator Energy」はエナジードリンク「Monster」の新興国向けラインで、より手の届きやすい価格設定になっています。コカ・コーラなどの強いブランドの製品に加え、現地のニーズに応じた地域向けのラインナップを取り揃えている所は、コカ・コーラの強みの1つであると言えます。

特徴2:製品の流通網~マイクロディストリビューションセンター(MDC)

また、製品の流通網も特徴的です。アフリカ各国はまだ道路インフラが未整備な所も多く、全国へ製品を行き渡らせることは容易ではありません。そのような状況の中、コカ・コーラは”マイクロディストリビューションシステム“と呼ばれる流通ネットワークを構築することで、トラックでは輸送が難しい郊外やインフォーマルマーケットへも製品の配架を可能にしています。

下記にその概要を示していますが、コカ・コーラ社は、コカ・コーラの製造・販売を担うボトリングカンパニーに対して原液を販売し、ボトリングカンパニーが製品化・容器詰めを行った後、自社の持つ流通網を通じて製品を各地へと届けています。この流通において特徴的なのが、マイクロディストリビューションセンター(MDC)と呼ばれる存在です。これはいわば流通のラストマイルを担う存在で、高卒程度の学力を持つ現地人材がオーナーとなり、半径数km程度、数百店舗の小売店舗やレストランへ製品を届ける役割を担います。工場から各地の倉庫、MDCへはトラック輸送が主ですが、MDCが製品を届ける先は未舗装路の先であったり市場の中であったりするため、最後はバイクや手押し車などで製品を届けています(写真ではロバがコカ・コーラを載せた台車を引いていますが、郊外の方ではこうしたロバが荷物を運ぶ光景も珍しくはありません)。こうしたMDCを数千以上設けることで、都市部だけでなく郊外においてもコカ・コーラ製品を広く届けることができるのです。

尚、筆者が初めてアフリカを訪れたのは10年以上前のタンザニアでのボランティアとしてで、電気はぎりぎり届いているものの水道はない…という田舎町で活動していました。しかし、そんな町でさえもコカ・コーラの製品が届いていたことはよく覚えています。

MDCのような仕組みは一朝一夕に構築できるものではありませんが、アフリカの未整備なインフラや流通網を踏まえ、それでも尚自社の製品を届けるために築き上げられてきたものであり、現在のコカ・コーラの強みの1つにもなっていると思います。

“製品やオペレーションの現地化”とまとめてしまえば簡単ですが、コカ・コーラという世界有数の会社がアフリカでどのような取り組みを積み重ねてきたのか。これからアフリカ市場に向き合っていこうという方や既に市場での取り組みを進められている方にとって、学びや参考になる点があれば幸いです。

 

文責:AAICケニア法人 マネージャー 松井裕里香