【写真:東アフリカ・ルワンダの首都キガリの中心部】道路は整備されており、大型ショッピングモールや高層ビルのテナントには外資系企業も展開している(筆者撮影)
昨今、アフリカ市場は、世界中からビジネス展開の将来の主要エリアとして注目が高まりつつある中で、依然日本企業の展開数は他国と比較し多くありません。その要因の一つは、アフリカでのビジネスにおける「リスク」に対する懸念が挙げられます。 それでは、アフリカへのビジネス展開している企業はどのようにアプローチしているのでしょうか? 私はアフリカへのビジネス展開を進めている日本企業6社を対象に研究しました。ここではその概要をご紹介致します。 ※本レポートは、2022年9月に神戸大学大学院に受理された論文を基に作成しています。MBA論文「日本企業におけるアフリカへのビジネス展開の促進要因について-コーポレート・ソーシャル・アントレプレナーシップの視点から」 神戸大学MBA 2022年度修了者の論文題目リスト https://mba.kobe-u.ac.jp/thesis/16791/ ※著作権は筆者に属し、無断転載は不可。1.背景
アフリカでは、今や援助ではなくビジネス投資が求められています。「21世紀最大のフロンティア」とも呼ばれています(外務省2021)。このように称される背景には、以下の2つの要素があります(A,B)。 A)日本の将来のビジネスにおいて、アフリカの重要性が高まりつつある。 ➀アフリカの市場規模の拡大(特に人口とGDP成長率による「中所得者層」の拡大) ②イノベーションのスピード (リープフロッグと呼ばれる、一足飛びで最新技術が広まる現象) ③日本企業に問われる「存在意義」と「貢献」(事業が社会にどのような貢献をなしているか) B)途上国における資金総額は、民間資金>ODA資金 ・世界の途上国における資金額は、今や各国政府が拠出する「ODA資金」よりも「民間資金」の金額が上回っている。この傾向はアフリカでも例外ではない。 ・よりビジネスの重要性が高まりつつある。 しかしながら、日本企業のアフリカの展開数は未だ少ないのが現状です。 ・2018年時点での日本の拠点数は858。ただし、商社などの資金調達としての目的が主流。 ・「アフリカの市場における日本のプレゼンスは貿易・投資両面で十分ではない」(JETRO2019) これはなぜだろうか、どうしたらより多くの日本企業が成長力の高いアフリカ市場へ展開するようになるだろうか、というのが、研究の大きな動機でした。2.先行研究Ⅰ~歴史、開発経済学、認知心理学
そこで、先行研究として、私は「歴史」「開発経済学」「認知心理学」の3点からアプローチしました。 それぞれから興味深い背景が読み取れ、特にリスクに直結する考え方として、「認知心理学」における「アフリカ・スキーマ」の影響が大きいと考えました。 ●アフリカ・スキーマとは 認知心理学では、既存の知識や枠組みの総称を「スキーマ」と呼ぶ。アフリカに対する日本人の認識は遥か過去の情報で留まっておりアフリカのイメージが停滞している。松田(2009)は日本人の『アフリカ・スキーマ』が歪んでいる、と指摘している。 先行研究から以下のことが分かりました。 ・アフリカは今まで長期的に経済が停滞してたが、それはアフリカに発展の素地がなかった訳ではなく、むしろ豊かな地域であったにも関わらず外的要因によって妨げられていた。 ・そして、特に日本人は情報量の少なさから、アフリカに対して無意識に歪んだ「アフリカ・スキーマ」を抱いていた、ということが、高いリスクのイメージに繋がっていると考えられる。3.先行研究Ⅱ~コーポレートソーシャルアントレプレナーシップ
本研究では、経営学の観点で「コーポレート・ソーシャル・アントレプレナーシップ(Corporate Social Entrepreneurship:以下CSE)」という考え方を軸にしました(Austin , Stevenson and Wei-Skillern(2006))。 これは、以下の3つの企業家の概念を複合化させたものです。 ➀Entrepreneurship ②Social Entrepreneurship ③Corporate Entrepreneurship
【図1:先行研究Ⅱ】
この概念の特徴は、ビジネスで収益を得るという「商業的意義」と、ビジネスによって企業が貢献する「社会的意義」を両立するという点にあります。一方で、特に収益性に関する考え方の相違からコンフリクトも発生している、という課題も指摘されてきました(横山,2019)。
4.リサーチデザイン
調査対象は、2つのグループを対象に計6社に実施しました。 ●調査対象企業:2つのグループに実施 グループⅠ これからアフリカでのビジネスを検討する企業(3社) グループⅡ 既にアフリカで展開している企業(3社) ●調査方法: インタビュー、アンケート調査 ※調査対象の選定は、CSEビジネスの概念に類似するJICAの「中小企業・SDGsビジネス支援企業」の採択企業から選定し、調査への協力を依頼しました。 ■JICA民間連携事業 https://www.jica.go.jp/priv_partner/index.html 日本企業のアフリカビジネスの展開のアプローチを捉える為、リサーチクエッションは以下の2つを設定しました。 ●リサーチクエッション RQ1:アフリカでのビジネスリスクをどのように捉えているか? (リスク感度) RQ2:リスクに対してどのようなアプローチで対応しているか?(対応策) さらに、前述のCSEの考え方をアフリカビジネスの検討に応用する為に、アフリカでのビジネス検討で課題となる「アフリカでのビジネスに対するリスク」と「Revenue(収益性、採算性)」の要素を追加し、分析の枠組みを以下のように設定しました。以下、この右図をフレームワークA(=Africa)と呼ぶことにします。
【図2:リサーチデザイン】
5.インタビューⅠ&Ⅱ
グループⅠ&Ⅱのインタビューから、大変興味深い話が伺えました。様々な情報や考え方が明らかになりましたが、共通点も見えてきました。 ・推進者のフットワーク(但しアフリカ未経験の方もいる) ・社長のトップダウン ・強い企業理念 ・スピード重視… 簡易的に以下の図で示します。
【図3:インタビューⅠ】※グループⅠは、インタビュー当時JICA事業の最中だったため、社名などは非表示とする。
【図4:インタビューⅡ】
6.分析結果のまとめ
インタビューの結果を整理していくと、以下のような企業の行動指針が見えてきました。 ・リスクを細かく分析していない(リスクはある前提で、柔軟に対応する組織) ・強い企業理念 ・どの企業も、事業に必要なすべての要素・資源は初めから全ては揃っておらず、アフリカへのビジネス展開をすると決断した後から、ネットワークを広げて確保 これを先のフレームワークAに当てはめると、以下のように、企業・組織がプロセスを経て遷移しながら成長していると考えられました。
【図5:分析結果まとめ】
7.インプリケーション
本研究により、「5つの発見事実」、「理論的インプリケーション」、「実践的インプリケーション(日本企業側)」、「実践的インプリケーション(支援機関側)」、が得られました。非常に様々な角度から含意が得られました。 このAAICレポートでは、特に日本企業がアフリカへのビジネス展開を検討するに当たり関わりが深い、「実践的インプリケーション(企業側)」について、ごく簡単にご紹介したいと思います。 前提として、企業・組織全体として対応していくこと必要であり、推進部署やチームメンバーにだけに任せていては推進が困難、という事実がありました。その上で、以下の2つがアフリカへのビジネスを推進する上で重要なポイントとなっていました。 ●実践的インプリケーション(企業側) ➀経営層によるコミットが必須(権限移譲と後方支援) ②社内推進者のインフォーマルな活動の正当化(これまでの規則に縛られることなく、活動範囲を広げることを容認) このインプリケーションは非常にシンプルなので理解されやすいかと思います。しかし、これが実践できている企業は実は少なく、逆に実践できている企業こそが現在アフリカへのビジネス展開を継続的に進めることが出来ている、と考えられます。 小さい当たり前のような要素に見えて、その実、努力を積み重ねていくのがいかに難しい要素であるか、ということに実感として気付かれるのではないでしょうか。8.最後に
私は現在、関係者の方からの勧めもあり、このMBA論文を再編集し、JICA緒方貞子平和開発研究所(以下、JICA研究所)にJICAナレッジレポートとして投稿準備を進めています。JICA研究所の所員の方々から丁寧なご助言とご協力を頂き、2023年4~5月頃に掲載予定です。 こちらにアップロードされるレポートは一般公開版ですので、自由にダウンロード頂けます。 ●JICA研究所:ナレッジレポート https://www.jica.go.jp/jica-ri/ja/publication/knowledge/index.html さらに、JICAの民間連携事業部からも、この論文に関する非常に前向きなコメントを頂き、JICAの施策検討に関わる示唆が多分に含まれていることから、今後JICAとの意見交換の打診も頂いています。 本論文は、アカデミックな視点からアプローチし、ビジネスや現場状況を踏まえた知見を導き出すことを目指して執筆したものです。これからアフリカへのビジネス展開を検討されている企業支援や、施策検討に何等か貢献できれば非常に嬉しく思います。 そして、日本企業のビジネス展開の活況によって、日本社会だけではなく、アフリカの現地の支援にも繋がっていけば…、という思いを強く抱いています。
【写真:TICAD7(2019)の会場】アフリカへの展開を検討している日本企業、ビジネス提携を目指すアフリカ企業が出展、多くの人が集まり大盛況だった(筆者撮影)。TICAD8(2022)はチュニジアで開催され、次のTICAD9は2025年に再び日本でが開催される予定。
文責:AAIC Japan コンサルタント/広報・IR担当 小郷智子 出典:本レポートは、2022年9月に神戸大学大学院に修めたMBA論文を基に作成。 「日本企業におけるアフリカへのビジネス展開の促進要因について-コーポレート・ソーシャル・アントレプレナーシップの視点から」 神戸大学MBA 2022年度修了者の論文題目リスト https://mba.kobe-u.ac.jp/thesis/16791/ 参考:JICA世界日記 TICAD7@横浜に参加! https://world-diary.jica.go.jp/ogotomoko/activity/ticad7.php【AAICからのお知らせ】
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