AAICケニアの星野です。
アフリカへの日系企業の進出支援/コンサルを担当して6年近く、ケニアに活動の拠点を移してから3年近くが経ちますが、アフリカでは資源、インフラ、自動車、産業機械など古くから日系企業が事業を展開してきた領域だけでなく、経済成長、市場の成熟に伴い消費財メーカーの興味、関心が強くなってきたことを感じています。(とはいえ、日本人がイメージする中間層が育ってきているかというと、まだまだこれからなのも事実です。これについてもいずれ書いてみたいと思います。)
そこで、今回は、ケニアとナイジェリア市場で起きた新興トルコ企業による多国籍企業(MNC、Multinational Corporation)への真っ向勝負、大逆転劇について書いてみます。今後アフリカへの進出を検討する日系企業にとって、とても示唆深い事例ですので是非ご一読ください。
トルコを代表する消費財メーカー Hayat Kimya
物語の主人公は、ハヤット・キミヤ(Hayat Kimya)社。トルコを代表する消費財メーカーで、衛生用品(子供用オムツ、生理用ナプキン)、洗剤、マスク、大人用オムツ、トイレットペーパーなどを製造、販売しています(図1)。2019年の売上高は8.6億USドル(約989億円、1USドル=115円で換算)。
図1: トルコを代表する消費財メーカー、ハヤット・キミヤ社の商品ライン
グローバル展開に積極的で世界8か国に計21工場を持ち、100か国に出荷実績があります。サブサハラ・アフリカを注力領域にしており、ナイジェリアとケニアに拠点を設立しています。また、タイやマレーシアなど東南アジアでも相次いで製造拠点、生産拠点を設立しているのも特徴的です(図2)。
図2: ハヤット・キミヤ社のグローバル展開
Pampersのシェアを切り崩したMolfix
2016年以降ハヤット・キミヤ社はサブサハラに積極展開を始めました。2016年にはナイジェリアで子供用オムツとティッシュペーパーの生産拠点を、2018年にはケニアに販売拠点を設立しました。いずれの市場においても子供用オムツ(Molfix)と生理用ナプキン(Molped)を戦略的商品と位置付けてローンチしました。その結果、何が起きたか。ユーロモニターのマーケットシェアが如実に物語っています(図3)。
図3:ナイジェリアとケニアの子供用オムツ市場のマーケットシェア推移
図3の赤く囲んである箇所がMolfixの数量ベースのマーケットシェアですが、生産拠点を設立したナイジェリアではPampers(パンパース、P&G社)が長年維持してきた50%以上のシェアを切り崩し2020年時点でシェア60%超。ケニアでもナイジェリアほどではありませんが、PampersとHuggies(Kimberly Clark)がエンジョイしていた市場に一石投じることに成功しており2020年時点でシェア20%。弊社の調査に基づくと30~35%でトップシェアに躍り出ている可能性もあり、驚異的です。
また、遅れてローンチした生理用ナプキン(Molped)でも、子供用オムツ(Molfix)での成功再現を虎視眈々と狙っています。
鳴かず飛ばずの時期を乗り越えて
アフリカでは市場によっては中国やインド、韓国企業などの勢いがありますが、FMCG(日用消費財、Fast Moving Consumer Goods)市場ではP&G、ユニリーバ、マース、ペプシコ、ネスレ、ジョンソン&ジョンソン、コカ・コーラなど、欧米のMNCのプレゼンスが非常に高いです。
そこに安かろう、悪かろうではないトルコ企業が食い込んでいったこの事例は大変興味深いです。では、ハヤット・キミヤ社どうやってこの逆転劇を実現したのでしょうか。ケニアの事例を深掘ってみていきたいと思います。
実は彼らも初めから順調にシェアを獲得できたわけではありません。2012年~2015年にかけて、現地輸入代理店と協業することで子供用オムツMolfixを販売していましたが鳴かず飛ばずの時期を過ごしていました。ハヤット・キミヤ社が予算を付けて代理店を通してプロモーションを実行する方針でしたが、諸々の理由により正しく実行されなかったのが1つの理由です。「ライバルのパンパースよりも安くローンチし、品質にも自信があり勝てる要素はあったが、消費者に正しくメッセージを伝えられなかった」と関係者は語っています。また、流通についても地方を含めてきめ細かく入り込むことができず、ユーザーに届ける体制が整えられませんでした。
代理店ビジネスで行き詰っていたハヤット・キミヤ社ですが、ケニアは東アフリカの経済の中心であり、ビジネス環境も周辺国より整備されているため、注力していくべき市場という点は変わらず、依然として優先順位の高い市場でした。そこで2016年から2017年にかけて、トルコ本社からケニア出張を頻繁に繰り返して市場調査を実施し、改めて参入戦略を練り上げました。品質についてはもとより自信を持っていましたが、先行して参入していたナイジェリアでの知見も生かして商品の更なるローカライズを実施。同時に代理店ビジネスでの失敗を活かした流通戦略も構築し直しました。
ここからハヤット・キミヤ社の大躍進が始まるわけですが、この先、特に流通戦略については次回のnoteで皆さんにお届けしたいと思います!お楽しみに!
文章:AAICケニア 星野千秋
*サムネイル画像:ケニアスーパー店頭でのMolfix販売の様子(写真はAAICに帰属)
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