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ケニアとナイジェリアにおけるトルコのFMCG企業の大逆転劇 (下)

AAICケニアの星野です。

 前回のnoteでお届けしたハヤット・キミヤ(Hayat Kimya)のケニアでの快進撃の後半をお届けします。まだ前半をお読みでない方は是非ご一読ください。

 2016年から2017年にかけて入念な市場調査を実施し、参入戦略を練り上げたハヤット・キミヤ社。後半では流通戦略に絞って、ご紹介したいと思います。商品戦略やプロモーション戦略については、機会があればまた記事にする予定です。

代理店モデルから子会社モデルへ

 大きな戦略のシフトが、代理店からの依存脱却です。2018年に現地子会社Hayat Kimya Kenya社を設立し、現地事業を全て子会社が管理するモデルにシフトしました。

 弊社でも代理店探索や交渉のご支援をすることがありますが、多くの場合、一定程度の妥協を要します。輸入代理店の役割は輸入業務、流通(在庫、配荷)、代金回収、規制対応であることが一般的です。強力なネットワーク、高い与信力、営業・マーケに積極的、支払い条件・利幅設定がメーカー有利、競合商品は扱わない/自社商品のみ積極的やる、などメーカーが求める機能全てを兼ね揃えた代理店を見つけるのはとても難しいです。(ただし、P&Gなどグローバルで知名度のあるブランドの輸入代理店となれば話は別です。逆に代理店側からアプローチがあるでしょう。)

 ハヤット・キミヤ社は代理店ビジネスを通じてこれらに気づき、ケニア事業の将来性を鑑みて、現地の流通体制の頂点に子会社を置き、現地での販売状況、競合の状況、プロモーションの実施状況など事業全体をよりクリアに見渡せるようにしたのです。

 こうして、満を持して2019年に子供用オムツMolfixを公式ローンチしました。


2019年、Molfix公式ローンチ時

 なお、必ずしも代理店モデルがうまくいかない訳ではありませんし、このストーリーの示唆は代理店モデルの否定ではありません。日本のメーカーでも、現地代理店を支援する位置づけで子会社を設立し、それでうまく事業をモニタリングしたり、プロモーションを実施している事例もあります。ただし、そのようなメーカーの代理店は多くの場合古くから付き合いのある代理店ですので、やはり代理店モデルを展開するには粘り強くく長期的な目線で、代理店と共に成長していく視点が必要になってくると思います。

Regional Distributorsとの協業モデルの実現

 言うまでもなく子会社を設立しただけでは、流通戦略は実行できません。

 全国に展開するスーパー(ケニアではカルフール、ナイバス、クイックマートが該当し、オムツや生理用ナプキンの流通シェアの2~3割を占めます。)であればナイロビHQとの交渉になるので大きな問題ではありませんが、地方のスーパー/グロセリーストアや、パパママショップ(キオスク)となるとハヤット・キミヤ社だけではカバーできません。ハヤット・キミヤ社の最大のライバルであるP&Gを徹底的にベンチマークしていたハヤット・キミヤ社はこのことを良くわかっていました。

 具体的にどうしたのか説明する前に、P&Gの流通について少し触れておきます。実はP&Gは代理店モデルを採用しています。Hasbah社というHeinzやKelloggなどの輸入販売も行う代理店がP&Gの独占契約を締結しており、全国に5か所の営業拠点を構え、150名の営業スタッフを配置しています。非常に強力なFMCGの代理店です。5営業拠点からその先の二次卸、各地のスーパー/グロサリーストア、パパママショップ(キオスク)などに商品を卸しています。

 ハヤット・キミヤ社はHasbah社の5か所150名体制を、地方を中心にFMCGの流通を行っているRegional Distributors (以下、RD) 27社との協業で代替しました。

 これが、子会社設立の次にハヤット・キミヤ社が取った戦略、「RDとの協業戦略」です。


図はAAICに帰属

 既にその地域で砂糖、メイズ、コメ、石鹸、洗剤などのコモディティ商品を流通している流通業者をRDとして選定し、Molfixの配荷を始めました。既に地元で名の知れた流通業者なので、その先の地方スーパーやキオスクに効果的な営業を行うことができるのです。そして、ハヤット・キミヤ社はRD1社につき1人の営業担当をアサインし、営業、マーケティング、在庫管理などで密に連携を取りました。自社から手を離れると何が起きているか分からなくなるという代理店モデルでの失敗を教訓にしています。

ドラスティックな人材採用

 ハヤット・キミヤ社ケニア事業の営業、マーケ部門は現地トップ(GM)の下に、営業トップがおり、その下にマーケティングマネージャー、西部担当営業マネージャー、東部担当営業マネージャー、MT担当営業(前述の大手スーパー3社はハヤット・キミヤ社から直接配荷しています)がいます。

 各地のRDを担当しているRegional sales representative (RSP) は西部、東部営業マネージャーの下に27名います。営業・マーケティングだけで30名超の所帯です。ケニア市場への本気度が伝わってきます。

 この体制のもと、わずか2年で30%のマーケットシェアを獲得できたわけです。成功の鍵である信頼のおけるRDと、RDを管理するRSP 27名をどのように見つけてきたのでしょうか?

図はAAICに帰属

 答えは非常にドラスティックではありますが、Hasbah社からの積極的なヘッドハントです。各地のRDについて深い知見を持つHasbah社のDistribution & Extension Managerをヘッドハント。RDのケーパビリティ(エリアカバレッジ、組織体制・与信力、流通体制(配送車など))を知り尽くしており、取引交渉(支払い条件、MoQ、インセンティブなど)は百戦錬磨です。RD網を迅速に構築できたのはこのお陰です。更に、RSPもほぼ全員Hasbah社からのヘッドハントか、Hasbah社を辞めた人を採用しました。

 代理店モデルでは、必ずしもオムツ営業のノウハウを持ったスタッフを確保できませんし、地方含めて理想の流通ネットワークを抱えているとも限りません。その点においてハヤット・キミヤ社が取った流通戦略は秀逸ですし、ケニア市場へのコミットメント、強い想いがあったからこそ実行できたのではないかと思います。

終わりに

 これまでAAICは多くの日系メーカーのアフリカ進出支援をご支援してきました。その中で、(アフリカだけではないと思いますが、)代理店とのコミュニケーションがうまくいっていない、ちゃんとした報告が上がってこない、ポジティブなことばかり言ってくる、などソフト面で様々な課題を聞いてきました。

 ハヤット・キミヤ社のストーリーはそのような企業や、これから進出を検討している企業にとって大変示唆に富んだ事例だと思っています。

 アフリカは最後のフロンティアかもしれませんが、既にブルーオーシャンではない市場も多くあります。決して甘くはないですが、本気で向き合えば攻め方は見つけられます。この記事が少しでもヒントになれば嬉しく思います。

 まだ書き切れていない内容がありますので、ご興味ある方は是非ご連絡ください。

文章:AAICケニア 星野千秋

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