今年2月に行われた大統領選の結果から、今週(2023年5月29日(月))ナイジェリアでBola Ahmed Tinubu氏が大統領として就任し、就任演説が行われました。今回はこの就任演説の内容から改めて、アフリカ最大の国ナイジェリアの現在地を振り返りたいと思います。
就任スピーチでは国が現在抱える課題に言及、燃料補助金の撤廃を示唆
今週5月29日(月)に行われた就任演説では、 治安、経済、雇用、金融政策、外交など、現在国民の頭の中にあるナイジェリアの課題について幅広く言及し、国民の感情を団結させて、発展・成長へと推し進めていくことを意識した内容となりました。また、就任式で経済の立て直し、最低でも年間6%の経済成長を行うとともに投資の障壁を取り除き、雇用創出とダブルスタンダードとなっている為替相場を一本化するという公約も打ち出しました。
今回の演説で現地のメディア等で最もハイライトされたのが、燃料の補助金の撤廃に関してです。
ナイジェリアはアフリカで最大の産油国でありながら、ガソリンなどの燃料を精製するキャパシティが国内で限られているために、多くを輸入で賄っています。またその輸入したガソリン等の燃料のコストの一部を政府が補助金で負担し、人々の生活を支えるという方法を1970年代から続けてきました。昨年のウクライナ危機以降、燃料価格は上がり続け燃料への補助金が政府の財政を圧迫し、その額は22年で9,300百万米ドル(4.3兆ナイラ)程度となっています。
前政権(同じAPC)で既に段階的に補助金を撤廃していく方向で進んでいましたが、改めて就任演説でも“Subsidy can no longer justify its ever-increasing costs in the wake of drying resources”と言及したうえで、教育や医療など他の分野への投資に向けるべきという点を強調し、新政権でも引き継ぐことを表明しました。
昨年から物価の上昇が続き、ラゴスの市民の通勤の足となっていた乗合のタクシー(Danfo)などは、一時期2倍以上の価格となっていました。多くの国民にとって感情的にも受け入れにくいタイミングでの補助金の撤廃は、さらに国民の不満を増大させる可能性があり、新大統領にとっては難しい舵取りが必要となります。
先週、5月23日にアフリカ最大の富豪のAliko Dangoteが率いるナイジェリア最大財閥のDangote Groupの石油精製プラントの稼働が始まりましたが、多くは輸出にまわされる見込みで、国内で消費されるガソリンなどは引き続き輸入に頼ることになります。
ナイジェリア民政史上で最も接戦となった大統領選:分断を進める方向に
今週の就任演説では、冒頭で大統領選に関する言及もありました。2月に行われた大統領選はナイジェリアが民政に移行した1999年以降で各候補者の得票数が最も拮抗する「激戦」となり、結果的に国内を分断が進むかたちとなったので、就任演説では、改めて選挙が公平に行われたことを主張しながらも、他の候補者にも配慮しながら国内を団結させることを意図した内容となっていました。
2月25日に投票が行われた今回の選挙は、歴史上最大の約8,700万人の有権者がいながら、投票率は過去最低の27%でした。日本の場合は、選挙の投票率の議論が行われるときは若い人たちを中心にした政治的無関心などの問題などが理由に挙げられますが、ナイジェリアなど新興国では、物理的に投票所に行くことができるか、その投票が正しく結果に反映されるかという、選挙の投票プロセスが大きな問題となることがあります。
さらに今回の選挙では、直前に前大統領政権(新大統領と同じAPC)が新紙幣の導入を決定し、旧紙幣との入れ替えがうまくできず、ナイジェリア国内に混乱を招きました。選挙期間中も毎日ラゴス市内のATMに長蛇の列ができ、現金で決済される乗合のタクシーなどが使えず人々の動きは止められました。真偽のほどはわかりませんが、APCが意図的にこの政策を行い、投票率を下げて大統領選を優位に進めたと言われています。
また今回の選挙の開票プロセスについても不正があったという指摘があります。得票数で2位のアブカバル氏が所属する最大野党の国民民主党(PDP)や今回の大統領選で若い人々に圧倒的な支持を得た3位のオビ氏の労働党(LP)などが、異議申し立てを行っており、これから裁判が行われる予定となっています。
「アフリカの巨人」は大きさを生かして成長できるか
ナイジェリアは経済規模、人口ともにアフリカ最大の国で「アフリカの巨人」と言われています。人口は伸び続け、2050年にはアメリカを抜き世界第三位になると言われています。上記の通り、アフリカ最大の産油国で資源に恵まれながらも、これまでも持続的な成長ができずにいました。足元の経済が悪化し、国民の生活も厳しく不満も大きくなり、大統領選でさらに分断が進む中で、新政権がどのような舵取りをしていくか今後注視していく必要があります。
筆者:AAICナイジェリア法人代表 一宮暢彦
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