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世界で活躍する印僑!インド進出を目指す日本企業はどのように向き合っていくべきか?

先日、文部科学省や東京大学などがインドのAI(人工知能)等の先端人材獲得強化のため、留学生に300万円の支援金を支給するというニュースが発表され、話題になりました*1。今後、すべての産業でAIの活用が重要であることに疑いの余地はありませんが、なぜ『インド人』なのでしょうか? 本稿では世界で活躍するインド人についてデータを見ながら紹介していきたいと思います。

1.世界で活躍する印僑

日本人にとって、世界で活躍する中国人(華僑)は身近な存在かと思いますが、同様に世界中でたくさんの「印僑」が活躍しています。印僑という言葉の定義は曖昧な部分がありますが、一般的に「19世紀以降のインドからの海外移民」を指します。さらに、インド政府の定義では、印僑は下記の2つのタイプに分類されています。

NRI(Non-Resident Indians):インド国籍を持つ、インド人非居住者

・PIO(People of Indian Origin):インド以外の国籍を保有するインド系の在外居住者

インド政府が発表している2024年11月時点の世界の印僑に関する統計データを見ると、世界の印僑はおよそ3,500万人程度で、インド人口14億人に対し2.5%程度のインパクトということになります。

印僑の多い国Top10を見ると、アメリカが1位で約540万人、次いで中東、東南アジア、アフリカ地域の印僑が多いことが分かります(図1)*2。NRI/PIO別でみると、中東諸国の多くは短期の出稼ぎ労働者であることが推察される一方、マレーシア、ミャンマー、南アフリカなどではPIOが多く、多くの印僑が現地に定住していることが伺えます。また、印僑数トップのアメリカについてはNRI、PIO共に一定数が存在しています。では、どのような印僑がアメリカで活躍しているのでしょうか?

2.アメリカで活躍する印僑

冒頭で述べたような優秀なインド人の獲得競争が世界中で始まっていますが、インド人は本当に優秀なのでしょうか? いくつかの観点から分析してみたいと思います。

まずは、アメリカのFortune 500(2024年)の企業に占める各国のCEO比率を見てみたいと思います(図2、AAIC調べ)。北米出身者が402名、欧州出身者が43名と圧倒的に多く、それに次いで多いのがインドの13名となります(インド系2世の3人を含めると、16人となります)。東アジアは台湾3名、中国と韓国がそれぞれ2名、日本は0名なので、相対的にインド比率の高さが目立ちます。また、インド出身者がCEOを務める企業を業界別で分析すると約半数の7名がテクノロジー系であり、インド人がIT系産業において活躍していることが分かります。

例えば、Google/Alphabet CEOのPichai Sundararajan氏、Microsoft CEOのSatya Nadella氏、IBM CEOのArvind Krishna氏など、アメリカを代表する企業のCEOが皆インド出身です(図3)。さらに、近年の欧米企業の経営者まで範囲を広げるとスターバックス前CEOのLaxman Narasimhan氏、シャネルCEOのLeena Nair氏、MasterCard 前CEO/世界銀行総裁のAjay Banga氏など枚挙にいとまがありません。

さらに日本でも2022年に亀田製菓が日本本社のトップにジュネジャ・レカ・ラジュ氏を登用したことがニュースとなりましたが、世界的に見ると不思議な話ではないことが分かります。

では、どのようにして彼らはグローバル企業の経営者となったのでしょうか? 彼らのキャリアを見ると大きく二分されます。1つ目が、インドで優秀な大学(例:インド工科大学(IIT))を卒業後、グローバル企業に入社し、キャリアを築くパターン。2つ目が、大学から優秀なアメリカの大学に入学し、そのままグローバル企業に入社するパターンです。楽天やメルカリなどの日本企業が一時期インドにおける新卒採用を強化していましたが、前者の人材の獲得を目指していたと考えられます。

QS World University Rankings 2025*3を見ると、Top200校に入るインドの大学はIIT Bombay校とIIT Delhi校の僅か2校のみです(ちなみに、評価方法の見直しの影響もあり、日本は10校ランクインしています)。一方で、2023年度にアメリカの大学等の高等教育機関に留学するインド人が中国を抜き首位の33万1,602人となりました*1。日本人は13位で1万3,959人であることを考えると、人口比で比べても2倍以上のインド人学生がアメリカに留学しており、優秀なインド人がどれだけたくさんアメリカで学び、グローバルのハイテク企業への就職を目指しているかが分かります。このように、アメリカの大手グローバル企業を目指すのが、エリートインド人が目指す王道コースと言えそうです。

一方、そのような中、近年の優秀なインド人を見ると、新たなキャリアの動きも出始めています。2025年1月、コーセーが出資を決めたFoxtale Consumer社*4CEO Romita Mazumdar氏はインドの田舎町出身で、同郷初のアメリカの大学へ進学した秀才で(UCLA: University of California, Los Angeles)、大学卒業後はアメリカの金融機関へ就職、そして当時インドで担当していた化粧品業界に興味を持ち、自身でも化粧品スタートアップを立ち上げ、2023年にはForbes社が選ぶアジアのUnder30の30人にも選定され、成功を収めています*5。

今後はアメリカで学びグローバル企業で出世するだけでなく、かつての中国で見られたような「ウミガメモデル」がインドでも増えてくるかもしれません。

3.日本企業のインド人との付き合い方

それでは、このようなインド人たちとどのようにして日本企業は向き合っていくべきなのでしょうか?

これまでの私の経験上、優秀なインド人、中でも海外経験のある若いインド人は、欧米流/最新の経営・事業スタイルをベースにコミュニケーションを取るビジネスパーソンが多く、特にインド人だからと言って身構えることはないように思います。

また、日本にも一定の理解があり、トヨタやソニーなどの日系グローバル企業のお陰で、ハードウェアやコンテンツ分野に対するリスペクトをもって接してくれる方も多いと感じています。おそらく日本人が「難しい」と感じるのはインド財閥企業や昔ながらの国内インド企業とのビジネスの場であることが多いかと思います。

一方で、インド市場を理解することは日本人にとって容易でないことはその通りかと思います。2021年にBCGが分析した各国消費者市場の類似性を分析したレポート*6を見ると、これは衝撃ですが、インドと日本のマーケットが主要国の中でも最も離れた位置づけであることが分かります(図4)。さらに、いくつかのテーマについて各国消費者の考え方の類似性/相違性を分析した結果を見てみても、「個人vs.コミュニティー」、「将来に対する考え方」、「起業家精神」のどれをとっても、日本とインドはほぼ対極に位置します(図5)。これらの結果を見ると、日本の消費者市場に慣れ親しんだビジネスパーソンであればあるほど、インドの消費者市場を理解することが難しいと言えるかもしれません。また、同様にインド従業員と一緒に組織を作り上げていくことも一朝一夕では進まないことを暗に意味しているとも言えます。

これらの背景に、インド社会のベースとなる、「輪廻転生」、「カーストとジャーティ」、「ジュガード」などの考え方があり、それらを理解することは容易ではありません。ではどのようにインド市場と向き合っていくべきでしょうか。

私は、1つの考え方として、本稿で取り上げてきたような優秀なインド人が日本企業とインドマーケットの懸け橋となるのではないかと考えています。自国の市場を理解すると共に、他国の文化を理解し、経営・事業に活かす素地を持ったインド人と共にインド市場で勝負をしていくというのも、今後の1つの日本企業の向き合い方だと考えています。

とはいうものの、すべてインド流に迎合する必要はないとも思います。スズキ自動車創業者の鈴木修氏がインド事業を開始した際に、毎月インドの工場を訪問し、ワーカーと同じ列に並びカレーを食べ、現地マネージャーたちの行動を変えていった話*7は有名かと思います。私も「日本流」をインド人としつこく議論し、時に対立しながらも、インドに日本的な生産方式や事業スタイルを導入することで、うまく組織が回るようになったという経験があります。

インド市場の理解は現地を知るインド人から教わりつつも、これまで世界で通用した日本流のベストプラクティスをしっかり現地のインド人に対して発信していくことも、互いのリスペクトを生み、一緒に事業を作っていくうえでは大切なことだと考えています。

文章:AAICパートナー、AAIC日本法人代表/シンガポール法人取締役 難波 昇平

 

【出所】
*1 日本経済新聞 「インド人留学生に1人年300万円 AI人材確保へ文科省」
*2 Ministry of External Affairs “Population of Overseas Indians” (2024年11月26日版)
*3 QS World University Rankings 2025 (https://www.topuniversities.com/world-university-rankings)
*4 株式会社コーセープレスリリース 「~重点領域であるグローバルサウス市場の事業を強化~ インド「Foxtale Consumer Pvt. Ltd.」への出資と 同社との戦略的提携契約を締結」
*5 Forbes “30 under 30 Asia 2023, Retail & Ecommerce”
*6 BCG ”Navigating a Diverse World of Consumer Mindsets and Choice” (2021)
*7 President Online 「まさに豊田章男会長が憧れた「おやじさん」だった…鈴木修さんが「インド工場の食堂」で従業員の心を掴んだ行動」

 

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