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爆発的な成長に期待!「インド化粧品業界の近年のトレンド」

インドにおける美容トレンドと言えば、インドに少し詳しい方であれば、ボリウッド(※1)俳優の特徴的なメイクアップや身だしなみが思い浮かぶのではないでしょうか? 私がインドにいた10年以上前も、今もなおアメリカで活躍するプリヤンカー・チョープラーの力強いアイメイクや鮮やかなリップ、3大カーンの1人であるアーミル・カーンの鍛え抜かれた肉体や(役作りによって異なりますが)精悍な髭などが鮮明に思い出されます。

上記俳優に代表されるように、従来は色白の肌とストレートの黒い髪、男性であれば加えて精悍な髭が美の基準にあり、欧米トレンドとインドの伝統的医学であるアーユルヴェーダ(※2)をベースとした美容アイテムが混在するのがインドの特徴でした。本稿ではコロナが収束し、今年中に世界人口1位を達成するインドの近年の美容トレンドと今後の成長の可能性について紹介したいと思います。

※1 ボリウッド:インド・ムンバイのインド映画産業全般につけられた俗称。ムンバイの旧称「ボンベイ」の頭文字「ボ」と、アメリカ映画産業の中心地「ハリウッド」を合わせてつけられた。*1

※2 アーユルヴェーダ:インド亜大陸の伝統的医学。インド政府によりアユシュ省(インド伝統医療省)が設置され、公認の医学体系の一部として約600種類の薬草から医薬品や健康食品が製造されている。*1

■インドの化粧品市場の概況と日本企業の動向

インドにおける化粧品およびパーソナルケア市場(以下、BPC市場※3)は、2022年で約2.1兆円で、中国の5分の1、日本の半分程度であり、人口規模から考えると現時点では比較的小さな市場規模です。内訳をみると、バス&シャワーとヘアケアといった身体の洗浄や基本的な身だしなみに関するカテゴリが全体の半数程度を占めます。(図1)。

※3 BPC市場:メイクアップ、スキンケア、ヘアケア、サンケア、バス&シャワー等の製品の小売市場

図1 インドのBPC市場規模とその内訳

一方でプレミアム市場に絞ると、市場規模はおよそ1,000億円程度と限定的ではあるものの、美容を主な目的としたヘアケア、スキンケア、メイクアップが全体の70%以上を占めます。インド全土では未だ未熟な美容業界も、高所得者層の中では美容市場が確立し、さらに今後も大きな成長(年率10%以上)が見込まれることが分かります(図2)。

図2 インドのBPC市場-プレミアム市場規模とその内訳

スキンケア市場全体ではヒンドゥスタン・ユニリーバが35%程度と圧倒的なシェアを持つ一方、プレミアム・スキンケア市場は分散市場で、その中で上位を占めるのはエスティ・ローダー・カンパニーズやロレアル・グループといった欧州企業です(図3)。メイクアップもプレミアム市場に絞ると分散市場ですが、同様に欧州企業が上位を占めています。

図3 インドのBPC市場-プレミアム・スキンケア市場におけるブランドシェア

また、プレミアム・スキンケア市場の内訳を見ると、ブランド単体では資生堂が2位と健闘しています。資生堂は2001年にローカルのディストリビューターを活用し参入、百貨店等のチャネルでプレミアム・スキンケアブランド「SHISEIDO」の販売を開始し、その後3ブランドを展開することでシェアを獲得しています。また、2023年にはインドの高級百貨店であるShoppers Stopと戦略的事業提携を締結し、メイクアップブランド「NARS Cosmetics」をShoppers Stopの子会社代理店経由で展開することを発表*2、スキンケア製品に加えてプレミアム・メイクアップ製品でもシェア拡大を目指しています。一方で、KOSEは2015年にインド市場に参入し、「インドの消費者はインド国産ブランドを好む」という調査結果の基、一部の原材料を日本から輸入の上、インド国内で生産した大衆向けスキンケアブランド「Spawake」を発売し、徐々にシェアを拡大しています*3。

■インド化粧品市場の近年のトレンド

コロナで他国同様に一時期市場が縮小したインドですが、近年のトレンドとして3点ご紹介したいと思います。

・オーガニックやクリーンビューティーといった天然素材をキーワードとした製品展開の加速
・美白化粧品の依然とした人気と、一方で肌の色に対する差別的マーケティングへの論争
・D2Cを中心とした新興ブランドの台頭

1点目は、近年のインド消費者の成熟により、有害な化学物質への危機感や、SDGsや環境問題への意識の高まりにより、従来から生活の根幹にあったアーユルヴェーダをベースとした化粧品(Ayurvedic)への人気が高まっており、その市場規模は2024年までに7,110億インドルピー(約1.2兆円、ただしBPC製品の他に食料品を含む)まで拡大すると言われています*4。低刺激で自然由来の成分を使った低価格帯スキンケア、ベビー用品等で中間層から支持を集めるスタートアップ「mamaearth」、インドで初めてヨーロッパの自然派パーソナルケア認証を取得した「SoulTree」など(図4)、多くの新興企業がこの分野で急成長を遂げています。

図4 Ayurvedic化粧品トレンドと関連する企業例

2点目は、インドの美白化粧品の人気は継続しているものの、美白効果や肌の色の比較といったマーケティング手法への反感が徐々に拡大していることです。例えば、Hindustan Unileverの美白クリーム「Fair and Lovely」は、色黒の女性が色白になることで成功を収めるというテレビCMで論争が巻き起こり、Fair(=肌の色が白い)という単語の利用をやめ、1975年から続いたブランド名を「Glow and Lovely」に変更しました。上述した消費者の安全性の観点からも美白クリームに対する社会の目は厳しくなりつつあり、今後も同市場への風当たりは強くなっていくものと考えられます。

3点目のトレンドとして、D2Cスタートアップの台頭を取り上げたいと思います。2016年以降、様々な業界合計で600以上のD2Cブランドが誕生、そのうちの1割以上が過去5年間に誕生したBPC業界のブランドと言われています*5。物理的な小売店舗へのアクセスが限定的で、既存ブランドが狙わないTier2とTier3都市の女性を主なターゲットに設定しています(実際にオンライン取引の半数近くがこれらの都市の消費者)。これらのブランドの展開企業としては、売上が100mUSDを超えるユニコーン・スタートアップも存在しています(図5)。

図5 インドのBPC市場におけるD2Cブランド例

MyGlammはD2C化粧品ブランドとして2017年に創業、当初よりデジタルマーケティングに力を入れ、インドのセレブリティーを活用するなどして人気を集めましたが、2020年に女性中心のデジタルコミュニティをリードするPOPxo社を買収することで、自社のC2C(content to commerce)モデルを確立しました(図6)。5,000万人の女性コミュニティーと7.5万人のインフルエンサーの獲得により、マーケティングコストを抑えた効率的な顧客獲得を実現したばかりか、同社買収後1か月で新規獲得ユーザーは3万人から6万人にまで倍増しました(図7)。その後も買収を繰り返すことで、現在はFMCGコングロマリットとして20程度のサービス/ブランドを有するインドのBPC市場を代表する企業に成長しました。

図6 M&Aで成長したD2Cスタートアップ「MyGlamm」

図7 MyGlammのミレニアム女性向けデジタルコミュニティの活用例

また、2012年にムンバイで創業したD2Cブランドの先駆けであるNykaaも特徴的な進化を見せた企業です。「インド版セフォラ」を目指したNykaaは化粧品ECとしてTier2、Tier3都市の消費者がアクセスできない商品を在庫ベースで取り扱うことで大きく成長し、その後自社D2Cブランドの製品展開や他社ブランドの買収、リアル店舗での製品販売へと事業を拡大して成功をおさめ、2021年に上場しました。また、2022年からはエスティ・ローダー・カンパニーズとタッグを組み、「BEAUTY&YOU」というインドの次世代の美容ブランドを発掘し、ノウハウ注入と成長支援をするプログラムの展開を開始しています。Nykaaにとっては新たな売れ筋ブランドの発掘につながり、エスティ・ローダー・カンパニーズにとっては、Ayurvedicなどインドの伝統や歴史を反映した高品質の製品の発掘やそれらからの学び、そしてNykaaとの連携によるインド全土へのリーチ拡大など、双方企業にとってWin-Winの関係となり得る面白い取り組みを始めています*6(図8)。今後もこのようなグローバル企業とローカル企業のコラボレーションが増えていくであろうと考えられます。

図8 エスティ・ローダー・カンパニーズとNykaaによる「BEAUTY&YOU」

■今後爆発的な成長を迎えるインドのBPC市場

冒頭で示した今後も高い成長率を誇るインドのBPC市場ですが、前線で活躍する経営者たちも今後の成長を確信する発言をしています。

・Nykaa CEO Falguni Nayar氏:「今後5年以内に、美容市場の絶対的な規模が(世界で)トップ5かトップ3になるだろうと予測されている。」

・The Good Glamm Group(MyGlamm)CEO Darpan Sanghvi氏:「(インドにおける)美容とパーソナルケアの普及率は世界でもっとも低いうちに入る。(中略)一気に拡大するのを待っていた市場だ。」*6

さらに、インドの女性だけでなく、男性についても1日平均42分(身体ケアに16分、ヘアケアに14分、フェイスケアに12分)もの時間を「身だしなみに費やしている」というデータもあり*7、インドは女性・男性共に今後も目の離せない大きな成長市場だと考えられます。

文章:AAICパートナー、AAIC日本法人代表/シンガポール法人取締役 難波 昇平、James/Natasha(インターン)

【出所】

*1 Wikipediaの関連ページより抜粋
*2 NNA Asia 「資生堂、高級化粧品「NARS」を年内発売」
*3 BeautyTech.jp 「コーセー「Spawake」、インド市場での絶妙なポジショニングと成長戦略」
*4 Cision PR Newswire “India Ayurveda Industry Outlook 2019-2024 – Market Size & Growth Forecasts, Product Launches, Competitive Landscape”
*5 The Economic Times Business Verticals “Trends shaping the future of the Indian beauty and personal care market”
*6 DIGIDAY 「インド で美容市場はいま急成長中のひとつ。グローバル展開の可能性は?」
*7 美容経済新聞 「インドの男性は一日あたり平均42分を身だしなみに費やす」

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