ケニアでは「ナイロビSGR」と呼ばれる高速鉄道/SGR(Standard Gauge Railway)が、2017年5月に開通しました。まずは、首都ナイロビからモンバサまでの約470㎞。これは、東京から京都までの距離(約500㎞)とほぼ同じです。
中国が一帯一路の一環として、中国の技術と資金(約8割が中国の支援)で出来上がった高速鉄道です。5年間、中国人が指導を行って、ケニア側に引き渡されることになっています。
しかし、ナイロビ高速鉄道はこれで終わりではありません。すでに開通しているジブチ〜アディスアベバ間をはじめ、エチオピアやウガンダ、ルワンダ、南スーダン、コンゴなど、東アフリカが広く結ばれる計画になっているのです。背景にあるのが、中国の「一帯一路」構想。そこに、この高速鉄道も深く組み込まれているのです。
そしてここには、さまざまなアフリカの事情もからんでいます。例えばエチオピアは、ジプチやエリトリアが独立したことにより、現在、海に面していません。首都は内陸地にあります。
よって、海の玄関であるジブチから首都ダルエスサラームまで、高速鉄道と高速道路を造ることは、グローバル経済につながるために、非常に重要なのです。
今後、路線が拡大していけば、ウガンダの首都カンパラ、ルワンダの首都キガリ、ブルンジの首都ブジュンブラという、東アフリカ主要国の首都を結ぶ大動脈が誕生することになります。
いずれは、ここからアフリカ大陸を横断し、大西洋までつないでいくという構想もあります。
こうして見てみると、ルワンダはまさに東アフリカの内陸の中心で、内陸のハブになれる位置にあります。
高速鉄道はもちろん、人々の移動を便利にするわけですが、実際にはメインは貨物。アフリカ域内の物流コストの低減・高速化によって、大きなインパクトをもたらします。以前、東アフリカに鉄道を引いたのは、1890年代のイギリスでした。
これ以来の新しい路線が、ナイロビ高速鉄道であり、これから始まる路線計画なのです。それだけにアフリカにとっては、とても大きな意味を持っています。
中国の夢「一帯一路」構想でアフリカが広く結ばれる
中国の海外への投資がいかに凄まじいか。海外投資は毎年のように増え続けていき、2017年時点で2653億ドル、日本円で約27兆円にものぼります。
実は日本の年間のインフラ投資規模は約28兆円です。日本のインフラと同じくらいの規模を毎年、世界にばらまいているということです。
ちなみに中国国内のインフラ投資は約120兆円規模。建築市場規模は約80兆円です。これは米国の約79兆円と同規模になっています。
そんな中でも、中国がアフリカにどのくらい力を入れているかがよく分かるのは、アフリカが最大の投資先になっていることです。
一帯一路での全世界への投資のうち、アフリカには約8兆円、実に29%も投資している。これは、東南アジアへの27%よりも多く最大です。以下、南アジアに10%、中東に10%、中央アジアに1・3%などと続きます。
そしてアフリカへの投資の内訳を見てみると、最大の投資先はナイジェリアで約1兆2000億円、4・3%。継いで、ケニア、アンゴラ、エチオピア、アルジェリア、ザンビア、ガーナと続いていきます。これは「一帯一路」構想の一環で進められています。
それにしても8兆円もの投資が1年で行われる。そうなると、中国にどんどん「借り」を作ることになります。最近になって言われてきた「債務の罠」です。すでにGDPあたり100%近くまで借りてしまっている国も少なくありません。
東南アジアではカンボジアやラオス、中央アジアではキルギスタンやカザフスタン。こうなると、中国の言うことを聞かざるを得なくなるでしょう。アフリカでは、アンゴラ、ニジェールなど資源国が多い。
アフリカが世界から借りているお金は全部で約80兆円になるのですが、このうち約21兆円を中国から借りているようです。このままでは返せなくなり、先にも触れた契約で長期租借などを実施されてしまうのではないか、というのが多くの国が不安視しているところです。
実際、スリランカは港湾でそれが現実化しました。アフリカでもジブチが危ないと言われています。中国は港湾を押えたいようです。インド洋、さらには大西洋に出る際の中継基地を持つことは、安全保障上、大きな意味を持つからです。
経済モデルを世界に輸出しようとしている中国
中国のアフリカへの積極投資の背景には、資源を押さえることと、国際世論を集めることがあります。そしてもうひとつ、「中国の夢」ともいうべき願望を果たすためもあるようです。
アヘン戦争から約180年。中国には屈辱の歴史がある。再び「中国の時代」を取り戻すべく、世界に踏み出しています。世界の覇権を握るためには、海の覇権を握ることが重要であることを歴史は教えてくれます。一帯一路には港湾などの海洋進出も入っています。
最近では、中国型の国家モデルのほうが欧米よりも優れているということも主張し始めています。「IT型全体国家主義」ともいうべき新たな国家モデルを、世界にアピールしているようにも見えます。
中国は、この30年で一気に経済大国になりました。バブル崩壊、失われた20年でもたもたしている日本を一気に抜き去ると、今や中国は日本のGDPの約3倍の規模を持つ、世界第2位の経済大国になりました。2028年頃には米国も抜いて世界1位になると予測されています。
この成功した要因には、中国型の経済発展モデルがあるのは事実だと思います。全体国家主義型の経済発展モデルです。民主的にバラバラにやってもうまくいかない。新興国が発展するにはこのモデルの方が優れている。アフリカでも同様にやれば発展することが可能だと。それは1つの発展モデルとしてはあり得ると思います。
さらに、今回の新型コロナ対策において、欧米よりも、自分たちのモデルのほうがうまく機能している。約3千万人が感染して、数10万人が亡くなった(2021年2月時点)米国のようになっていない。
大統領選での議事堂乱入や、人種問題での暴動など、中国内では起きていない。自分たちのモデルの方が優れているのではないか、というわけです。中国モデルのほうがいい、と。
ここ30年間の発展、世界2位になった経済成長、豊かになった生活、これらは賞賛すべきであり、素晴らしいと思います。日本の発展もそうですが、中国の発展もしっかり研究して、その良いところはアフリカの発展に応用すべきだと思っています。
日本や欧米の視点だけでなく、中国の視点からアフリカをみてみることも非常に大事だと考えております。今後は中国ともに行うプロジェクトにも大きな可能性があるかと思っております。
皆様の、ご発展の一助になれば幸いです。
文章:AAIC 代表パートナー 椿 進
Asia Africa Investment and Consulting(AAIC)代表パートナーを務めるアジア・アフリカビジネスのスペシャリスト。東京大学教養学部卒業。ボストン コンサルティング グループ(BCG)のパートナー・マネージングダイレクターとして、事業戦略、M&A戦略のプロジェクトを実施。2008年に現AAICを創業し、代表パートナーに就任。中国・東南アジア・インド・中東・アフリカ等で、新規事業育成、市場参入支援等をコンサルティングと投資を通じて実施。日本初のアフリカ・ファンドも運用。ルワンダではマカデミアナッツ農園も手がけている。執筆、講演多数。ビジネス・ブレークスルー(BBT)大学大学院教授として後進の育成にも力を注いでいる。 現地情報×ファクトフルネスで今のアフリカを解説した著書『超加速経済アフリカ: LEAPFROGで変わる未来のビジネス地図』はAmazonビジネス書ベストセラー、発売たちまち5刷になるなど話題を呼んでいる。
東洋経済オンラインでもアフリカに関する記事を好評連載中。