2021年も残すところ、あと1か月となりました。
新型コロナウイルスの新たな変異株、オミクロンが南アフリカで特定され、引き続き状況に注視が必要です。また、今年はこの新型コロナを契機にアフリカのデジタルヘルスの実装について各所で議論が行われ、多くのヘルステックのスタートアップに注目が集まった年でもありました。
今回は、未だに大きな課題を抱えるナイジェリアのヘルスケア領域でオンラインベースの医療保険事業を展開するReliance Health(リライアンスヘルス、AAIC Investmentが運営するアフリカヘルスケアファンドの投資先)をご紹介します。
ナイジェリアの医療保険市場:医療保険加入率4%の未開拓市場
人口2億人超のアフリカ最大の国、ナイジェリアでの医療保険加入率はわずか4%と言われています。日本のように国民皆保険制度が普及している国から見ると驚きの数字かもしれません。結果的に、ナイジェリアの医療費の自己負担比率は77%と、サブサハラアフリカの国々平均の2倍とアフリカの中でも高くなっています。また、医師の数も少なく人口1万人あたりの医師の数は5名を下回っており、こちらもアフリカの他の国と比較しても低い水準となっています。医療サービスへのアクセスが圧倒的に不足しており、当然サービスの質も全体的に低いと言わざるを得ません。
私自身もナイジェリアの首都ラゴスで生活をする中で、一度知人が体調を崩した際に、ラゴス市内でも比較的評判の高い私立病院診察に付き添ったことがありますが、渋滞で病院に行くまで1時間弱、着いて診察を受けるまで2時間、診断後に抗生物質とビタミン剤を処方されましたが、この薬を得るためだけに4時間弱と考えると絶望的な感覚に陥りました。
Reliance Health:デジタル化された医療保険プログラムで低価格、高効率を実現。ホワイトスペースに飛び込む
そのような医療保険加入者4%の市場環境を大きな機会と捉え、96%のホワイトスペースに切り込むスタートアップがReliance Healthです。保険会社としてのライセンスを持ち、大手の保険会社がまだ出来ていないプロセスの完全デジタル化を実現し、既存市場にない低価格で質の高い新しい医療保険のサービスを提供しています。
<加入・支払いのプロセスをデジタル化>
ナイジェリアの一般的な医療保険は基本的には一年分の保険料を前払いとなっており、上述の通り国内大手企業の社員など一部の人々にしかアクセスができないサービスとなっています。 Reliance Healthは保険加入プロセスを完全デジタルに標準化することで加入の障壁を取り除きました。個人で加入が出来、支払いもデビットカードか銀行振込で月次、四半期、年間の3種類から選ぶことが出来ます。価格も最低プランが月3,500ナイラ(約700円)とこれまでにない低価格を実現しました。
<初診は遠隔診断にして効率的な保険の運営を実現>
またReliance Healthの医療保険では、加入者に体調の異常があった場合、遠隔診断を義務付けています。被保険者はビデオ通話、もしくはテキストチャットで医師の診断を受けることができます。特に検査を必要としない程度のものであれば医師がその場で処方箋を出し、提携先の薬局で薬の受取り、病院に行く必要がある場合も初期の問診を事前にインプットすることで効率的な医療サービスの提供が可能となります。
弊社のナイジェリア法人でも従業員向けにReliance Healthの保険に加入してもらっていますが、先日、20代男性社員が体調を崩したところ、すぐに遠隔診断を受診することになり、テキストチャットで医師に薬を処方してもらい、自宅最寄りの薬局を受取先に指定し、効率よく薬を受け取れたということでした。
この社員は前職でも会社が医療保険を付保してくれていたようですが、遠隔診断はなく、病院に行くのが面倒だったと教えてくれました。テキストチャットで気軽に医師に相談ができるというのも、20代から30代のデジタルネイティブからすると親しみやすいサービスなのかもしれません。
<AIをベースにした求償システムで医療機関への支払いをスピード化>
Reliance Healthは現在、ナイジェリア国内1,000以上の医療機関と提携していますが、これらの病院の保険求償システムもデジタル化させることで、病院の経営側にもメリットをもたらしています。ナイジェリアでは医療保険を適用した場合、医療機関側が保険会社に求償を行うことが一般的となっています。多くの病院は中小規模で限られた資本で運営されており、いかに早く求償を行い入金ができるかというのが大きな問題となります。
その点、Reliance HealthはAIを搭載した自動化された求償システムで迅速に処理を行い、数日以内に入金まで完了できる体制を構築しています。以前、他の保険会社と提携している病院にインタビューした際に、求償から入金まで早くても3週間から4週間、長引いた場合は2か月以上かかり、保険会社とのやりとりも電話が一般的ということでしたので、キャッシュフローが大きな問題となる病院にとって大きなメリットをもたらしていると言えます。
以上のように、Reliance Healthでは、加入⇒診断⇒求償の医療保険に関する一連のプロセスをデジタル化し、加入者(個人および雇用主)、医療機関、薬局など様々なステークホルダーが持つペインポイントを解決する強固なビジネスモデルを構築しています。
文章:AAICナイジェリア法人代表 一宮