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スマートシティ先進国シンガポールの最新取り組み

去年11月、世界のスマートシティのランキングの一つであるIMD Smart City Indexにおいて、シンガポールが3年連続で1位の座を獲得しました。シンガポールは他にもEden Strategy InstituteのSmart City Government Rankingで1位、2thinknowのInnovation Cities Indexで5位と、都市別スマートシティおよびイノベーション関連のランキングにおいて必ず上位に現れます。

私自身、今年でシンガポール在住歴5年となりますが、生活のいたるところでスマートシティの恩恵を感じます。キャッシュレス化が急速に進み、現金に触れる機会はめっきり減りました。納税手続きもコロナワクチンの接種予約もSMSで通知を受け取り、政府の公式オンラインサイト上でワクチン接種会場の予約を行いました。シンガポールでは、天気が一日に何度も変わることがありますが、環境省の無料アプリから高精度な降水情報のアラートが届いたり、交通省のデータを活用した無料アプリでバスの到着時間を1分単位の精度で確認しています。

今回はそんなスマートシティの業界リーダー的存在、シンガポールのスマートシティ政策について取り上げてみました。

シンガポールのスマートシティ政策概要

スマートシティ政策はシンガポール政府首相府(Prime Minister Office)直轄のSmart Nation and Digital Government Office(SNDGO)と、その実施機関であるGovernment Technology Agency (GovTech)の総括のもと、分野ごとに各省庁が進めています。ビジネス・ガバネンス・ヘルス・交通・都市計画の5つのセグメントにAI、サイバーセキュリティを加え、合計7つの領域に注力しています。領域ごとにたくさんのイニシアチブが推進されている中、今回は特に面白い取り組みを3つご紹介します。

図1:シンガポールのSmart Nation Initiative 7つの領域


図はAAICに帰属

国民の生活を一変させた:E-Payments

2017年にPayNowの登場以降、個人間送金をデジタルで行うことが当たり前になります。PayNowとはシンガポールの銀行10社*に口座を持つ者同士であれば、口座登録に用いた電話番号または国民IDを使って土日祝日、時間帯問わず、即時振り込みができるサービスです。

PayNowはFAST(Fast and Secure Transfers)という、銀行間のAPI支払いゲートウェイを統合することでリアルタイムな直接送金を可能とする技術を用いています。FASTもPayNowもSNDGOのイニシアチブの一つとして金融庁とシンガポール銀行協会が開発に携わりました。

2018年にはPayNow Corporateの発足を皮切りに、PayNowを用いた事業者や政府機関のビジネス送受金が可能となります。

同年、SQGRの導入によってシンガポールのデジタル支払い基盤がさらに一歩前進します。SGQRは複数の電子支払いQRコードを一つに束ねたユニバーサルQRコードです。事業者はSGQRコード1枚で複数の電子支払い方法に対応できるようになります(技術的に可能、という意味で、事業者がその電子支払い方法と契約していることが前提)。

*現在銀行10社と銀行以外の金融機関3社がPayNowに対応(DBS Bank/POSB, OCBC Bank, UOB, Bank of China, CIMB Bank Berhad, Citibank Singapore Limited, HSBC, Industrial and Commercial Bank of China Limited, Maybank, Standard Chartered Bank, UOB, GrabPay, LiquidPay and Singtel Dash)

図2:SGQRコード(イメージ)


図はAAICに帰属

SGQRコードの最大の恩恵を受けているのが、元々支払い端末を保有しておらず取引をキャッシュで行っていたパパママショップ、ホーカーセンター(フードコートのようなもの)の屋台オーナーなどの小規模事業者・個人事業主です。SGQRコードはQRコードを印刷した紙をレジ前にぺたっと貼るだけで導入可能なので、初期費用ほぼゼロでデジタル支払いをビジネスに取り入れることができます。2021年にこのような小規模飲食店で行われた電子取引の総額は$1,830万SGD以上で、総取引回数も約200万回、その94%がSGQRコードを用いたものでした。

デジタル化は数字に如実に表れてきています。PayNowの登録者は280万人で、20-75歳の人口の65%に相当します。これは2019年のデータなので、今はもっと多いでしょう。SGQRに対応している事業者も約15万、全体の75%です(2021年)。例えば、同僚と会食し、割り勘をする際などもその場でPayNowで送金するのがシンガポール流で、こうしたアプリやQRコードの読取が日常茶飯事に行われるため、スマートフォンの普及率が約90%近く(日本は2020年時点で78.5%)と高く、政府が率先して進めてきたシンガポールのデジタルペイメントの整備は今後も注目です。

スマートシティのセンサデータ基盤整備に向けた第一歩:Lampost-as-a-Platform

シンガポールでは2025年までに5Gの全土普及をはじめとした次世代コネクティビティを実現するスマートインフラの整備に注力しています。その一環としてひそかに推進されているのが、GovTechのSmart Nation Platform Solutions Teamが率いるLampost-as-a-Platform (LaaP)、直訳すると「(街中の)電柱をDXプラットフォームにしていく」という官民連携のイニチアチブです。民間プレイヤーとしてST Engineering Advanced Networks & Sensorsが2018年に750万SGD(約6億7000万円)のテンダーを獲得のうえで参画しています。

LaaPイニシアチブでは電柱に搭載した様々なセンサからリアルタイムで取得した都市全体の空間データを基に、都市デザインを行うことを目指しています。都市部のありとあらゆる道に立っているの電柱は、都市細部までに入り込むためには最適なインフラといえます。ゆくゆくは政府が保有するすべてのスマートセンサをSmart Nation Sensor Platformという、シンガポールの都市空間を360度から把握するための政府機関共通のテクノロジープラットフォームに発展させる計画です。

LaaPは技術的には有線・無線(低バンド幅、低パワーWAN)技術を利用したクラウドベースのインフラです。そこにビデオ、環境センサ、ジオロケーションセンサなどを搭載します。

LaaPは4つの恩恵をもたらすと考えられています。

1. ローカライズされた環境モニタリングをもとに都市デザインの最適化

2. クラウド(群衆)分析をもとに交通インフラ計画の最適化

3. パーソナルモビリティデバイス(PMD)や自転車の認識・分類と速度検知

4. Vehicle-to-Infrastructure (V2I)を持ちいた自動運転の実現

2021年時点では実証実験段階で、シンガポール西部のOne-North、中央エリアのGeylangの2か所に合計50機を搭載しています。ネクストステージでは北部のPunggolでさらに実証実験を進める計画です。今後の進展に注目です。

図3・4:Lampost-as-a Platformイメージ・機能


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革新的なロジスティクスソリューションの提案:Networked Trade Platform

東京23区相当の国土の四方を海に囲われたシンガポールにとって、貿易業は極めて重要な産業です。シンガポール政府は貿易業の発展を促進する目的で2018年よりNetworked Trade Platform(NTP)を運用しています。NTPは貿易・ロジスティクスの課題や非効率性の改善に資するワンストップのデータ管理プラットフォームで、2020年時点で3,700法人が登録しています。

そもそも現在の貿易業は様々な「無駄」や「フラストレーション」が存在します。一つの取引につき平均で25のステークホルダーが関わり、30-40枚の資料が作成されます。その間、殆どのやり取りはメールや電話で行われます。さらに、データの60-70%は手作業で2回以上入力されていて、これは非効率なだけでなく、ミスの誘発に繋がります。

図5:NTP資料・貿易業が直面する課題、非効率なコミュニケーション


資料はAAICに帰属

そこでシンガポール政府は、中立的な官の立場からできるDX化がないかと考え、ワンストップのデータ管理プラットフォームの提供を始めます(ウエアハウスなどのインフラ・ハードウエアは一切保有していない100%ソフトなプレイヤーに徹しています)。ユーザーがアップロードした情報をシステム上に安全に保存したうえで、ユーザーの要請に応じてバリューチェーン下流のプレイヤーにそのまま共有します。さらに、同データを政府や金融機関に共有することができるので、ユーザーは補助金やクレジットの申請にも役立てることができます。

統合的なデータ管理の他に、NTPはネットワーキングの支援という側面もあります。プラットフォームに登録していると、全登録企業のリストにアクセスすることができるので、同業者やパートナーの発見・関係構築に役立ちます。また、プラットフォーム上では官ではカバーしきれないバリューチェーンの課題解決に向け、政府のロジスティクスソリューションプロバイダーパートナー40社*と繋がることも可能です。

*企業例:Contour、Systpro、Hakovo、Chubb

シンガポール政府はこのように国民の生活に関わるスマートシティ政策に留まらず、基幹事業のDX化にも積極的に関わっています。

まとめ

サステナブルなまちづくりについて、生活とビジネスに根づくデジタルトランスフォーメーション化について、シンガポールのスマートシティ政策から学べることは多くあります。弊社ではこのように幅広いネットワークを活用のうえで世界の最新トレンドを常時キャッチし、成功事例の分析に基づいた新規事業の提案のご支援を行っております。ご興味をお持ちの方はお問い合わせページよりお気軽にお声がけください。

文章:AAIC シンガポールオフィス 太田 胡桃

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