AAIC|Asia Africa Investment & Consulting

アフリカの中低所得者層をターゲットにして、事業として成り立つのか?

アフリカの人口は2024年に15億1,514万人に達し、今後も増加が見込まれている(出所:UN)。また、経済成長率は2024年に3.8%、2025年には4.2%と、世界平均を上回る成長が予測されている(アフリカ開発銀行)。しかしながら、ケニアやナイジェリアといったアフリカの中でも人口規模、経済規模の大きな注目国でも、1人当たりGDPはまだ2,000米ドル台の前半で推移している。これを月に換算すると200米ドル、つまり約3万円程度に留まっている。こうした状況から、「アフリカ市場には本当に商機があるのか?」と疑問を持たれることもあるだろう。

ちなみに、「アフリカは『国単位』ではなく『都市単位』で捉えるべき」という意見もある。例えば、ケニアで考えると、首都ナイロビでは、国の1人当たりGDPの約2.5倍に達するが、その人口は500万人以下に留まる。しかしこのように都市に限ってしまうと、アフリカ全体の15億人というせっかくの人口規模のメリットが薄れてしまう。そのため、事業規模を拡大するにあたっては、中低所得者層を含む広範な市場をターゲットにすることで、この人口規模のメリットを享受しうることができる。

AAICの投資先には、中低所得者層をターゲットにし黒字化を達成しているスタートアップも存在する。本稿では、その中から2社を取り上げ、アフリカ市場でのビジネス戦略の参考にしたい。

1.MNO(移動体通信事業者)との協業モデル:Credable社

Credableはタンザニア発のフィンテック企業で、デジタルバンキングプラットフォームを提供している。注目すべき点は、同社が単独で事業を展開するのではなく、MNO(移動体通信事業者)や銀行と提携し、システム開発に特化していることだ。

図表1:Credableのビジネスモデル

具体的には、Vodacomと提携し、2022年にM-Pesaの新サービス「MGODI(預金とローン)」を立ち上げた。M-Pesaを6ヶ月以上利用しているユーザーであれば、ローンの申請が可能な仕組みとなっている。

【出所:Vodacomウェブサイト】

収益モデル

MGODIのローンは30日間で、手数料は9-19%に設定されている。現時点の1件あたりのローン金額は10〜20米ドル程度。例えば、10米ドルのローンに対して手数料が10%ならば1米ドルの収益となるが、この程度の単価では顧客獲得コスト(CAC)をカバーするのは難しい。しかし、Vodacomはすでに1,000万人以上のM-Pesaユーザーを抱えており、そのユーザー基盤とデータを活用して効率的なターゲティングが可能となっている。さらに、ユーザーのローン利用データを蓄積することで、より高額のローンに対応するためのリスク分析も進めることができる。

他国展開

一度モバイルマネー向けのプラットフォームを構築すれば、他国への展開も容易だ。ウガンダではAirtelと提携してモバイルマネー(Airtel Money)向けの預金・融資サービスを展開している。Airtel Africaのモバイルマネーユーザーは3,750万人に上るため、ウガンダ以外の国を含めたさらなる成長が見込まれている。

図表2:Airtel Africaの拠点

データを活用した新たなスコアリングを開発中

Credableは、蓄積したデータを活用し、アフリカ市場に適したクレジットスコアリングの開発にも取り組んでいる。日本では法人・個人ともに与信審査が行われることが一般的だが、アフリカでは信頼できるデータが乏しく、信用度の評価が困難な場合が多い。Credableは、モバイルマネーのデータを活用することで、この課題の解決を目指している。これが実現すれば、優良な顧客はもっと安い金利でローンにアクセス可能となる。

2.モバイルマネーで革新する医療保険、クレカ並みの引き落とし機能:BIMA社

次に紹介するのは、BIMAという医療保険販売とデジタルヘルスサービスを提供するスタートアップである。ガーナを拠点にスタートし、その後タンザニア、バングラデシュなどアジア諸国にも進出。現在、アクティブユーザーは600万人を超えている。

ガーナでは月額GHS 22(約1.4米ドル)でファミリー向け医療保険を提供しており、24時間オンラインコンサルテーションを無制限に受けられる。医薬品は保険対象外だが、提携薬局で割引購入が可能で、自宅配送も行っている。

図表3:BIMA(ガーナ)の医療保険の価格表

写真:BIMA(ガーナ)のテレコンサルテーションルーム

収益モデル

このような低料金でどうやって事業が成り立っているのかという疑問があるかもしれないが、実際にBIMAは事業を展開している6カ国すべてで損益分岐点を超え、グループ全体でも黒字化を達成している。成功の鍵となっているのは、モバイルマネーの活用である。1〜3米ドルの保険料を毎月集金するのはコスト面で非効率なため、支払いはモバイルマネーに限定している。また、ガーナではモバイルマネーの自動引き落とし機能(月末、9時、12時、17時に引き落としなど設定可能)があり、効率的に保険料を回収している。ここまでくると、クレジットカードやデビットカードの機能と変わらない。

オンライン診察

さらに、オンラインコンサルテーションの導入により、劇的なコスト削減にも成功している。従来型の病院での診察はコストが高く、保険料ではカバーしきれないが、オンラインであればコストを大幅に抑えることができる。実際、7~8割の患者はオンライン診察で問題を解決しており、年間利用回数も4回程度に収まっている(無制限にしても、理由もなく、医師に電話をかけてくる人はいない)。この効率的な運営体制がBIMAの競争力を支えている。

図表4:BIMAの診察の流れ

【補足情報】
*割合は国によって異なる
*MilvikはBIMAのブランド名

 

尚、弊社AAIC Investmentでは、同社の事業展望を見据え、2024年10月に出資を決定した。

●プレスリリース
AAIC InvestmentがヘルステックプラットフォームMilvik(BIMA)への出資を発表、 アフリカファンド(AHF2号) – AAIC Holdings

 

今後のアフリカ市場へのアプローチの可能性:通信事業者やモバイルマネーの活用

アフリカで中低所得者層をターゲットにしたビジネスは、少額取引であっても、MNO(移動体通信事業者)のネットワークやモバイルマネーを活用することで、コストを大幅に抑えられるのが特徴だ。2007年にケニアで世界初のモバイルマネーであるM-Pesaが始まったことで、アフリカ市場ではインフラを活用したビジネス展開の余地が大きい。可処分所得の急増は難しいが、既存のインフラを最大限に活用し、効率的にコストを抑えることで、十分に市場の可能性を引き出せる。

 

【ご案内】AAIC Japan Roadshowのメインイベント、”Venture Nexus: Africa-Japan Connection”を開催(2024年11月20日(水))

11月20日(水)、上記の2社を含め、弊社の投資先を日本に招聘したイベントを開催します。ご興味を持って頂いた方はご参加下さい。お問い合わせ頂ければ、個別の面談の設定も検討させて頂きます。

◆開催概要◆
AAIC Japan Roadshowのメインイベント、”Venture Nexus: Africa-Japan Connection”を開催(11月20日(水))

 

筆者:石田 宏樹(AAIC ケニアオフィス代表・エジプト法人取締役)

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