日本でもWith/Afterコロナ関連のビジネス環境がどう変容するか、メディアでの特集や外部セミナーなどが盛んになっていますが、アフリカでも同様の議論が多く行われています。医療、物流、金融など様々な分野でデジタル化を加速させる方向に進んでいますが、今日は小売、EコマースはどうなるかというところをアフリカのAmazonと呼ばれるJumiaを中心にお話できればと思います。
尚、Jumiaについては概要を今年の2月に「アフリカのAmazonはWeWorkに?アフリカで初めてユニコーン企業となったJumiaの現在地」と題して、別の記事を書いておりますのでそちらもご参照ください。
After/with コロナでECへの普及は全世界的に加速
多くのメディアで報道のあった通り、新型コロナウイルスの影響でECへのシフトが加速していきました。日本ではZOZOが、アメリカではECの店舗制作をサポートするShopifyが最高益を出しました。新興国でもインドではAmazonIndiaやFlipkart、南米ではmercado libreなどが売上を大きく伸ばしました。
Jumiaの株価は新型コロナ後最低値から8倍以上に
このような潮流の中、株価の低迷していたアフリカ最大級のECプラットフォームを運営するJumiaにとっても新型コロナウイルスは追い風となります。同社は2019年4月の上場直後株価は最高値を記録したあと、毎四半期の決算で投資家の期待に沿う業績を出せず、株価は下降線をたどっていました。株価は2020年3月には1株2.33米ドルまで下がり、時価総額は200百万米ドルを下回りました。上場後の最高値と比較すると20分の1程度です。
しかし、上記の世界的なEC銘柄への期待とともに4月以降に株価はあがっていき、2020年第2四半期(1-6月)の決算発表の直前の8月には19.26米ドルと8倍以上までに上がり、時価総額も1,500百万米ドル以上まで戻しました。Jumiaは現時点でアフリカ11か国、アクティブユーザー6.8百万人、年間で11億ユーロの取引額(GMV 2019年度)の事業を展開するアフリカ最大級のECプラットフォームを展開する企業です。アフリカで事業を行うECの会社で世界の主要株式市場(ニューヨーク証券取引所)に上場しているのは同社のみなので、「新型コロナウイルスの影響でアフリカのEC普及は加速する」と見た投資家の期待を同社が一手に取る形で株価は上がり続けました。
しかし第2四半期決算で投資家の期待を裏切る
大きな期待とともに株価が上昇したJumiaでしたが、8月12日の第2四半期の決算発表で投資家の期待を裏切ることとなります。ナイジェリアやケニアなど多くの国で3月後半から5月にかけてロックダウンが起こり、外出の規制がある中でECへのシフトが爆発的に進むのではないかいう期待がありました。実際に我々の知るECを展開するアフリカ各国のスタートアップでも3月、4月は売上の増加がありました。しかしJumiaが発表したQ2の決算では投資家の期待するほどの爆発的な成長とはなりませんでした。
結果論と言われるかもしれませんが、我々の中でも、Jumiaの上がり続ける株価には違和感がありました。確かに今年3月時点の時価総額200百万米ドルは低い印象でしたが、それが新型コロナによって8倍以上の価値になるとは思えませんでした。新型コロナが深刻化した3月以降、毎月ナイジェリア、ケニア、エジプトなど各国のローカルリサーチャーと現地の街の様子や人々の生活の変化などについて報告をもらっていましたが、Jumiaが現地の人々の購買行動を支えているというような内容はありませんでした。お店の営業時間の制限、人々の外出規制がある中でも、多くの人々はモールやローカル市場での買い物を続けていました。
現地での人々の生活の様子を見ると、Jumiaの上位顧客の中心はExpat(外国人)です。海外でECでの購入経験があり、ECを使うメリットを経験としてもっている人々です。彼らが新型コロナウイルスの影響で自国に退避する中で、一部の新規ユーザーは獲得できたとしても、大きくGMVや売上は伸ばせないだろうというのが我々の感覚としてありました。
決算発表後、上昇していた株価は1/2程度となります。前年度対比で売上は減少、営業損益で改善したとはいえ、未だに黒字化のへの道筋が描けない決算に株式市場は冷静な反応をしました。
Jumiaの今後
現在(2020年9月29日)Jumiaの株価は1株7.77米ドルで時価総額は600百万米ドル程度となっています。9月に入り、アフリカ各国で国際線の運航が再開し、日本企業の駐在員など多くのExpatが戻っています。元来、上位顧客であった人々が戻ってくる中で、GMV、売上ともに増加する可能性もあります。一方、ショッピングモールやスーパーマーケットなどロックダウン期間中に営業を制限していたリアル小売店舗が通常の営業形態となる中で、どこまでコロナ禍で獲得した新規ユーザーを留められるか、デジタルサービスの評価をする際の指標の1つとなる”stickness(粘着性≒獲得した顧客を定着させられるか)”が試されるタイミングとなります。顧客満足度の向上のために、独自の支払いシステム(JumiaPay)の促進、様々な企業と連携を進めています。
新型コロナウイルスの影響で期待されたようなECへの急激なシフトは起こりませんでしたが、中長期的には、アフリカでもECの普及が将来的に進むことは間違いないと思います。Jumiaの本社があるナイジェリアは人口2億人規模の大国で、5年以内に国民1人あたりGDPが3,000米ドルを超え、世界でも有数の巨大消費市場となると注目されています。このような巨大成長市場の中で、競合他社を大きくリードするJumiaが、新型コロナで獲得した新規顧客を上記のような施策で定着させることができれば、1位としての地位をさらに固めることとなります。
アフリカEC市場の今後
今後のアフリカのEC市場はJumiaの独壇場となるのでしょうか?他の新興国の事例を見ると、アフリカでも将来的にはM&Aなども絡めた覇権争いが起こる可能性があります。ASEANの巨大ECプラットフォームLazadaにAlibabaが出資参画したり、インドのFlipkartにWalmartが出資参画しAmazonIndiaと激しい攻防を繰り広げたりという例を見ると、近い将来グローバルなメガプレイヤーが戦略的な目的でJumiaに出資をする可能性もあります。もしかすると、8月までの株価の急上昇はこのようなグローバルプレーヤーの参入の足音だったのかもしれません。
以前のレポートでも書かせていただきましたが、Jumiaには今後のアフリカ市場・社会を占う様々な要素が含まれています。そういった視点で同社の動向を追っていただくと新たなアフリカの発見があるかもしれません
文章:AAIC 一宮
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