スタートアップとの協業で日本企業のアフリカ進出に新たな商機が生まれる
私はナイジェリアの経済都市ラゴスで生活しておりますが、先月(2022年11月)で3年目を迎えました。2年前に赴任した際に大きな問題となっていた新型コロナ関連は落ち着いており各国からの出張者の往来も増えてきました。
ただ、ウクライナ危機以降、物価、特にガソリンなどのエネルギーの価格の高騰が顕著で現地通貨のナイラ安は続いています。年明け、2023年2月には大統領選を控えており少しずつですが緊張感が高まっている印象があります。
今回は、そのラゴスの街中でここ数か月猛烈な勢いで存在感を高めている日本メーカーの車の話を取り上げたいと思います。
自動車ローンを提供するスタートアップMooveとCFAO(豊田通商傘下)が協業しスズキ社の車両を流通
その車とはスズキ社のコンパクトカーS-presso(エスプレッソ)です。22年2月にUberなどのライドシェアのドライバー向けに自動車ローンを提供するスタートアップMooveがCFAO社(豊田通商傘下)から同社が取り扱う5,000台のスズキ社の車両を購入するという報道が出されました。ナイジェリア、ガーナのuberのドライバー向けに、Mooveが独自の自動車ローンで車両を販売するというものです。
Mooveはナイジェリア発のスタートアップで前述の通り、Uberなどのライドシェアのドライバー向けに”Drive to own”のコンセプトで車両を販売する事業を展開しています。
アフリカではこれまで信用情報の不足などから自動車ローンの普及が難しかったですが、同社はドライバーの運転情報などから独自のアルゴリズムで与信を管理しファイナンスを提供する仕組みを構築しました。
現在アフリカを中心に世界13都市で展開しており、累計の調達額も200百万米ドルを超え成長を続ける巨大スタートアップとなっています。日系ではKepple Africa VenturesがシリーズAに参画、MUIP(MUFG系CVC)がシリーズA2に参画しています。
また、今年のTICAD8のタイミングに合わせて、22年8月、スズキ、三菱UFJ銀行、Mooveの3社でアフリカ域内の協力関係強化とアフリカ外への海外進出を協働する主旨のMoUを締結しており、今後もアフリカ市場での事業の拡大が期待されています。
ラゴスで見ない日はないスズキの小型SUV S-presso
ナイジェリアのラゴス市内では、Mooveのステッカーのついたスズキ社のS-pressoを見ない日はないほど、増え続けています。最近オフィスへの通勤(市内で25分ほどの移動)で何台S-pressoを見るかというのを行っていますが、5台以上は目にします。半年前は、1台見つかれば良いという程度でしたが、この数か月で増加している印象です。
ラゴスの中心地Victoria IslandにあるCFAO社のショールームをたまに通りがかることがありますが、数十台のS-pressoが停まっており、ドライバーへの納車が行われているようです。
一方で納車された車がUber等で本当に稼働しているのか、疑問に思うことがあります。私はラゴスで配車サービスをほぼ毎日利用していますが、Mooveと提携しているuberは待ち時間が長く(多くは10分以上)、なかなか運転手が捕まらないので、競合のboltを使っています。
これだけMooveのスズキの車両が増えているのに、Uberのユーザーにとっては大きな変化は今のところありません。今後改善していくのかもしれませんが、”Drive to own”の”Drive”が本当に機能しているのかは今後も注視していきたいと思います。
南アフリカ ケープタウンのUber運転手と話したMooveの魅力
先日、南アフリカのケープタウンに滞在時にUberを利用する機会があり、たまたまS-pressoが配車され、Mooveのステッカーがついていたので、移動中に運転手の方と車の購入経緯等について話しました。私が日本人であることを伝えると嬉しそうにスズキ社のS-pressoの魅力について語ってくれました。
これまで燃費の良くない中古車を買うしか選択肢のなかった人々にとって、Uberの利用に最適な燃費の良い、信頼できるブランドの新車を初期負担を小さくして購入できることは大きな魅力になっているようです。
新たな販売チャネルとしてのスタートアップとの協業
このMooveとの協業によってCFAO社・スズキ社はアフリカ市場において新たな販売チャネルを獲得したと言えます。Moove社のビジネスモデルを通じてこれまでできなかった新たな顧客層にリーチできるきっかけとなります。
またMooveが構築するドライバーとのデジタルプラットフォームを介してユーザー(運転手)の運転データの収集、スペアパーツの販売などの新たな商機を創り出すことができます。
これまでアフリカでのメーカーの製品販売は現地の代理店を通じて販売のみというのが一般的でしたが、Mooveのような特定の個人や企業をデジタルプラットフォームで束ねるスタートアップの出現により、アフリカでの商品・サービスの展開方法において新たな選択肢追加されたといえます。
このMooveの事例はモビリティ関連ですが、他の産業でも日本企業とアフリカスタートアップとの同様の協業事例が出てきています。多くの日本企業がアフリカ市場への進出の際に難しさと挙げるのが、市場の複雑性(1か国の中でも多様なニーズが存在)と実質的な購買層の特定(統計等だけでは実際の購買層の大きさが特定できない)です。
Mooveの事例など、多くのスタートアップがデジタルのソリューションによって、これまでリーチできなかった購買層の拡大(新しい与信管理、Pay as you goなど)、解像度の高い顧客層のデータの取得を可能にしており、アフリカ進出を検討している日本企業のパートナーとなる可能性を秘めているかもしれません。
(参考情報)日本企業とアフリカのスタートアップの連携を促進するプラットフォームJ-Bridge
JETROが今年、日本企業と海外のスタートアップとの連携・協業を促進するプラットフォームJ-Bridgeのアフリカ版をローンチしております。アフリカのスタートアップに関連する様々な有益な情報の入手と協働可能性のあるスタートアップとのマッチングサポートなどを受けられるプラットフォームとなっております。無料で登録ができるので、アフリカのスタートアップとの協業に関心のある方にはおすすめです。
https://www.jetro.go.jp/jdxportal/j-bridge/
筆者:AAICナイジェリア法人代表 一宮暢彦
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