ケニアオフィスの星野です。本年1月1日にWTO創設以来最大の自由貿易協定といわれるアフリカ大陸自由貿易圏(以下、AfCFTA)協定が運用を開始しました。アフリカのモノとサービスの流れを根本的に変える協定として期待されていますが、「どれくらいの国が署名、既に批准しているの?」、「本当に加盟国間の関税が撤廃されたの?」、「そもそも、本当に運用は始まったの?」などの疑問を持たれているアフリカビジネス関係者もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、ジェトロ/経産省の菅野将史氏の資料を参照しながら、AfCFTA協定成立の背景、協定の内容、現在の運用状況等を整理したいと思います。
なお、過去にもAfCFTAの基礎について弊社のANZAにて記事を掲載しておりますので、併せてご一読頂ければ幸いです。https://anza-africa.com/blog/221
AfCFTA成立の背景
まず初めにアフリカの貿易面の課題とその要因について簡単に説明します。
アフリカ大陸は域内貿易が他大陸に比べて、圧倒的に少ないという問題を抱えています。その少ない域内貿易品も資源品目が最大となっており、工業製品等はアジアや欧州、米国などからの輸入に頼っている状況です。
その原因の1つが輸入税率(MFN税率)の高さと言えます。下図は各国のMFN税率の一例ですが、産業の米と言われる鉄でさえ、20%を超える国があり、工業製品の大半は20%以上です。もちろん、他にも製造業の未発達、物流網の整備の遅れなど様々な理由がありますが、税率の高さが域内貿易の促進の足かせになっているのは明らかです。
この状況を打破しようと、アフリカ域内でも地域経済共同体(以下、REC)の設立が進んでおりREC内の関税撤廃が進んでいましたが、一旦外に出るとMFN税率が適用されている状況が続いていました。つまり、例えばケニア企業がEAC内の隣国ウガンダやタンザニアの企業と貿易する際は条件を満たせば関税がかからないのですが、同じく隣国のエチオピアとの貿易では高関税が課されているということです。
2012年、遂に設立に向けて動き始めたAfCFTA
そのような状況の中、長年温められてきたアフリカ大陸全域の自由貿易圏構想が12年1月にエチオピアの首都アディスアベバで行われた第18回AU首脳会合で基本合意し、遂に本格的に動き始めました。
15年6月に正式交渉が開始され、18年3月21日にルワンダの首都キガリで開催されたAUの臨時首脳会合で、AfCFTA設立協定と2つの関連文書「AfCFTAの設立に関するキガリ宣言」、「ヒトの移動に関する議定書」の署名式が行われました。このAfCFTA協定には、式中に44カ国が署名し、18年4月にはルワンダとガーナが早くも批准しました。
それから約1年、19年4月に大きな節目を迎えました。ガンビア国民議会が批准を承認し、批准国が22か国に達したのです。AfCFTAは22カ国がアフリカ連合(AU)委員会に批准書を寄託した日から30日後に発効することになっていましたので、同年5月30日に遂に正式に発効されました。
20年12月現在、エリトリアを除く54か国が署名し、34か国が批准書を寄託済みです(21年1月にマラウイが批准し35か国に)。心配されていた大国ナイジェリアも20年7月に署名、12月に批准しています。
カギを握る譲許表の確定。関税撤廃までは猶予期間あり
実はAfCFTA協定自体は枠組み協定に過ぎず、関税撤廃品目など詳細は依然交渉中です。協定はフェーズ1と2に分かれていますが、18年3月に合意されたのはフェーズ1です。これには物品貿易やサービス貿易が含まれます。そして、物品貿易の関税の詳細を決める譲許表の交渉を進めているのが現在のステータスです。物品貿易の譲許表の確定は延期を重ねて20年中を目指していましたが、21年1月現在引き続き交渉中となっております。21年中には確定するのではないかと言われていますが実現するかは不明です。
また、譲許表(と原産地規則)が確定してもすぐに関税撤廃が実現するわけではありません。関税撤廃対象品目は基本的にタリフラインベース(以下、TLベース)で決定し、実際に撤廃するまで数年の猶予があるためです。
具体的には、
● TLベースで90%が5年以内に関税撤廃。
●TLの7%は、Sensitive Products として、10年間での関税撤廃を認める。
● TLの3%は、Exclusion List として、自由化の対象外とすることを認める。ただし、Exclusion List は、タリフバリュー(TV)ベースで当該国の他の加盟国からの輸入額の10%以内。
LDC(後発開発途上国)に該当する31か国に対して配慮がなされ、
● TLベースで90%が10年以内に関税撤廃。
● TLの7%は、Sensitive Products として、13年間での関税撤廃を認める。
● TLの3%は、自由化対象外
更に、エチオピアなど6ヶ国は、TLの85%が10年以内関税撤廃など、更に有利な配慮がなされています。
一般的には国内産業への影響を最小限に抑えるために段階的に税率を下げていきますが、ルール上は4年目まで現在の関税を維持し5年目に一気に撤廃することも可能であることも抑えておく必要があります。
まとめ
ここまでの内容をベースに、冒頭の疑問に対する回答をまとめてみました。
Q「どれくらいの国が既に署名、批准しているの?」
A「20年12月末時点で、54か国が署名、35か国が批准」
Q「本当に加盟国間の関税が撤廃されたの?」「そもそも、本当に運用は始まったの?」
A「現時点では多くの批准国、RECで譲許表の確定に至らず、しばらく時間がかかりそう。21年内にまとまるかどうかは不明。譲許表確定後も関税撤廃までは5~10年の猶予があり、実際にAfCFTA税率での取引が実現するまではまだ時間がかかる」
20年12月31日に日経新聞が「アフリカ自由貿易圏、12億人市場始動 供給網に課題」という記事を発表するなど、本年1月1日に運用開始されたというニュースをいくつか見ました。しかし、実際のところは運用開始まではしばらく時間がかかりそう、というのが結論です。
実際にインパクトを与えるまで時間がかかりそうなAfCFTAですが、中長期的にはアフリカ域内貿易が関税なしで取引される可能性は高く、製造業については多くの商材でアフリカに製造拠点を持っているかどうかが勝負の分かれ目になってくると思います。
トップ画像出所:African Union(https://africa-eu-partnership.org/en/afcfta)
文章:AAIC 星野千秋
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