写真提供:JIBU
2025年TICADに向け、アフリカの新興テックスタートアップやインパクトを創出するスタートアップに注目が集まり、こうした企業を紹介する日本ロードショーが開催されています。例えば11月には弊社が出資している投資先を招聘し、ロードショーを開催予定です。(AAIC roadshow2024 onepager 20241011)
アフリカでは様々な経済社会課題が存在する中、テクノロジーを活用、イノベーションを起こすスタートアップが多く立ち上がっています。2050年に世界人口の1/4がアフリカと予測され、消費市場として魅力が高まる中、日本企業もこうしたスタートアップとの「共創」を模索する動きがあります。
一方、テック、スタートアップという言葉が先走っている印象も受けています。
本レポートでは、「共創」という価値観を前提としながらも、現地のニーズに応じた実ビジネスを展開するアフリカのスタートアップ、成長する中小企業の力を「レバレッジ」する共創パートナーシップ構築を1つのアプローチとして提示します。
そして、テクノロジーを活用し、オフラインで顧客・患者接点(Point of Contact/POC)や製造拠点をもち、現地のニーズに応じた営業・販売ネットワークを持つ企業の事例からは様々な示唆が得られます。
アフリカ進出形態においては、魅力的な消費・成長市場から、更には現地生産、輸出拠点といった展開がありますが、今回は下記の1、2の事例をみていきます。
1.消費、サービス提供市場獲得に向けた「レバレッジ」
2.アフリカ内製化の動きをとらえた生産拠点となる企業を「レバレッジ」
尚、本レポートで紹介しているスタートアップの概要については、AAICの投資先企業一覧からもご覧頂けます。
1.消費、サービス提供市場獲得に向けた「レバレッジ」
①顧客接点もつ拠点を面で展開する企業との共創:
フランチャイズで多国展開するJIBU
過去のレポートでも紹介させて頂いたコミュニティウォーター事業を展開するJIBU[1]。水道水・井戸水などをFC店舗に設置した簡易設備で浄水(WHO基準)し、水を販売。現在は水から派生して、日常生活の基礎となるおかゆ、LPG販売など商品を拡大しています。2023年12月末で8国、約200フランチャイズを展開しています(ルワンダ、ウガンダ、ケニア、タンザニア、DRC、ザンビア、ブルンディ、ガーナ)。他の小売店等9,860拠点でもJIBU Water販売し、POC/顧客接点は45万人/日に達し、POSデータで購買履歴を分析しています。
2024年にJIBUは埼玉県の株式会社サイサン様JVを設立し[2]、ルワンダでLPG販売を強化。JIBUがもつ現地の販売ネットワークを活用・レバレッジし、きめ細かな販売体制の構築を目指しています。JIBUのCEOのGalenは「LPG販売によって、JIBUが付加価値として提供する生活必需品を強化することができる。JIBUが単なる販売ネットワークを提供するDistributorとなるのではなく、価格設定を含むターゲット層を共有するWin Winのパートナーシップを構築することができる」と、双方の強みをレバレッジすることの価値・重要性を強調しています。
出所:JIBU、AAICが分析
出所:JIBU、AAICが分析
提供:JIBU
透析センターを多国展開し、急成長するAfrica Healthcare Network
Africa Healthcare Network (AHN)は病院内に透析センターを設立するレベニューシェリングのビジネスモデルで、ルワンダ、タンザニア、ケニアと多国展開。2018年8センター、2023年45センター、2024年9月には56センターまで拡大しています。
近年アフリカでも感染症だけではなく生活習慣病が大きな課題となり、透析センターのニーズがますます高まりつつあります。AHNは質の高いサービス、かつアフォーダブルな価格で各国へ展開しています。AHNは数センターの時から急成長に向けた研修センターを構築、人材を育てることで、一貫したオペレーションを徹底し、多国展開を行っています。年間約10センター展開、約5-10ベット/センターと概算すると、それに伴い新たに透析装置、ダイアライザー(人工肝臓、透析装置の一つ)等の消耗品需要が発生します。
医療機器も、現地卸に営業機能をゆだねるアプローチに加え、急速に成長する病院、クリニックと連携することも、営業負担を軽減し、面の拡大を図る1つのアプローチになります。医師・患者との接点を持つ企業と連携することは、新興国での医師の声・患者データなど、フィードバック・情報へのアクセスも高まります。
②分散する市場を束ねるプラットフォームと共創:
医療機関・薬局と卸をつなぐE-commerceを展開するDrugstoc
ナイジェリアの医薬品市場は20億ドル以上と大きな市場ですが、小売流通は依然モダントレード化、グループ化している比率は全体の5%程度で、分散化された市場となっています。Drugstocは医療機関(病院・クリニック)、薬局と卸をつなぐEコマースビジネスを展開し、現在約4,000のアクティブユーザー(医療機関、薬局など)を顧客に持っています。また、ドラッグストックは製薬メーカーに対して薬事登録という付加価値も提供しています。
魅力的な市場ではあるものの、分散化した市場への参入、販売・営業展開はチャレンジです。最終顧客に如何に届けるか、現地の市場に精通し、顧客基盤をもつ企業との連携は大きな一つのアプローチです。その中で、ターゲット層、価格帯などの販売戦略が深まります。
久光製薬株式会社様はナイジェリア市場でのマーケティング、薬局販売が可能なDrugstocと連携することで、販売先のネットワークを活用し、市場参入を行っています。
2.アフリカ内製化の動きをとらえた生産拠点となる企業を「レバレッジ」
アフリカ初・WHO/PQS認証の注射器を製造するRevital
アフリカはワクチンの99%、医薬品・医療用品の70-90%を輸入に依存している状況です[3]。その状況に対し、Covid19以降、アフリカでのワクチン生産の強化などの動きが活発です。アフリカのCDCはアフリカUnion加盟国と連携し、2040年までにアフリカでのワクチン生産供給能力を60%まで高めることを戦略的目標に掲げています[4]。WHO、IFCやUNICEFもアフリカの現地生産強化に向けて支援を強化することを表明しています[5]。2023年にはコートジボワールで中国のFosun Pharmaが抗マラリア剤を製造する拠点にIFCが1億ユーロの融資を行っています[6]。アフリカ諸国内でも、ウガンダのBUBU(Buy Uganda Build Uganda)などヘルスケアに関わらず、内製化を促進する動きがあります。
弊社AAIC投資先に、この動きをとらえた、注射器をコアとする医療用品製造会社/Revitalがあります(ケニア、モンバサ)。Revitalの再利用不可の注射器はアフリカで初のWHO/PQS(医療機材の認証制度:Quality and Safety)を取得。マラリア、HIVの簡易検査キットの製造、加えて電気を必要としない新生児向け呼吸器(bCPAP)などイノベーティブな取組も行っています。日本では大原薬品様が、Revitalが現地の医療ニーズに合った医療機器の製造能力を高め、ケニア国内に留まらず、アフリカ諸国の健康水準の向上にさらに貢献していくことを期待し、弊社と共に共同投資を行っています[7]。
Revitalはアフリカの内製化の流れに沿って成長。射出成型機の台数もCovid19 前から倍増、質の高い日系メーカーを積極的に導入しています。既に複数の医療用品メーカーからOEM拠点としてアプローチを受けています。
この流れに対し、Revitalは生産拠点として国内市場、サブサハラ諸国、更にはアジアや欧米にも輸出し、サブサハラ諸国の保健省、国際機関など顧客基盤を強化しています。また、リードタイム、非効率なルートなどサプライチェーンに内在する課題に対し、Revitalは生産拠点から上記③(輸出拠点)につながる付加価値を模索。ヘルスケア物流拠点の検討でパートナーを模索する中、商船三井グループ様がRevitalの製造能力、顧客基盤を評価し、2023年に両社でMOUを締結[8]。モンバサに建設中の経済特区(国際協力機構が円借款で支援)にヘルスケア物流拠点設立に向けた準備を進めています。
提供:Revital
双方の強みを活かすWin Win の共創パートナーシップ
レバレッジという言葉を使っていますが、要は双方の強みを活かす、補い合う付加価値があるWin Winのパートナーシップ構築を如何に構築していくのでしょうか?
テック系のスタートアップ企業は魅力的で面白いビジネスが多々あり、オンライン予約プラットフォーム、E-Commerceなどは顧客がスイッチしやすく、事業のコントロールポイントが少ないともいえます。一方、POC・顧客接点や製造拠点を持つことで、上記の企業はより粘着性の高いビジネスモデルを形成しています。
アフリカのスタートアップがテクノロジーを活用することに加えて、サービス提供の顧客接点・POC、現地での製造能力といった実需に対応するスタートアップ、中小企業との連携は、日本企業の進出においても有効なアプローチです。そのようなスタートアップ、中小企業がスケールアップを加速する際に、「共創」はシナジーを創出する商品、機器・機材、新たな付加価値などを提供する一つの方法です。
では、どのようにそうした企業を発掘すればよいのでしょうか?これには様々な見極めポイントがあり、正解はありません。創業者やマネージメントの集積経験(メディカル、ファイナンス、ITのバックグラウンドを合わせ持つ経営陣)、インド、レバノン系など起業家の次世代というローカル×グローバルと多様性を持つ経営陣、また、中小企業では次の若い世代を登用し、権限移譲する力など組織体制で見るべきポイントは多いと感じています。
ただ、弊社の以前のレポートにもありますが、5年、10年と「経営の長期的視点と忍耐あるコミットメント」を持って取り組むべき市場という視点は重要です。
最後に、AAIC JAPAN Roadshow 2024のお知らせです。
2024年11月18-22日に約10社の弊社投資先を日本に招聘します。上記のAfrica Healthcare Network、Revitalも来日します。本レポートでご紹介した「共創」を担う企業とのビジネスの契機になる可能性もあります。
面談等ご関心があれば、是非ご連絡ください!
パンフレット:AAICroadshow2024_onepager_20240904ver1
文責:AAICシンガポール法人 ダイレクター 半田 滋
【脚注】
[1]noteにも掲載 https://note.com/aaic/n/nd960720c2410
[5] https://www.unicef.org/press-releases/africa-cdc-and-unicef-expand-partnership-strengthen-health-systems-and-immunization、https://www.who.int/news/item/25-04-2024-who-and-ifc-partnership-for-local-manufacturing-of-health-products
[6] https://pressroom.ifc.org/all/pages/PressDetail.aspx?ID=27583
[7] https://www.ohara-ch.co.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/2024_6_20_info_J.pdf
[8] https://www.mol.co.jp/pr/2024/24007.html / AAIC投資先の医療用品製造大手Revital Healthcare(ケニア)が 商船三井グループと戦略的提携に向けた覚書を締結 (aa-ic.com)
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