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アフリカと中国の関係をあらためて考えてみたい その(2)アフリカの携帯市場のリーディングカンパニー「Transsion」とは?

AAICチャイナチームでは、「アフリカと中国の関係をあらためて考え」、そこに我々日本企業がどのようにかかわっていくべきなのか?の示唆を獲得することを、今年の経営テーマの一つとして、深堀を続けています。初回(2023年12月)ご報告で、アフリカと中国の関係について全体状況をご紹介しました。今回は、2回目として、「Transsion」という興味深い企業についてご紹介したいと思います。

Transsion社のアフリカ(を含むグローバル)への事業展開を確認することで、日本企業のアフリカ展開への示唆を獲得できればと考えています。

なぜTranssion社を調べるのか?~ある意味圧倒的な先行者である中国企業に対し、日本企業は、どのように戦うべきか?

「手に取れる製品・商材を全土にいきわたらせている」中国民間企業の代表例として、アフリカの携帯電話市場のリーディングカンパニーである、Transsion社は外せません。

【図1】ある意味圧倒的圧倒的な先行者である中国企業に対し、日本企業は、どのように戦うべきか

【図2】携帯電話・Transsion 「中国では知っている人が少ない、アフリカ発の中国ブランド」

Transsion社は、アフリカの多くの方々に、生活インフラとして極めて重要な携帯電話端末を幅広く行き渡らせるという、非常に大きな貢献をしてきた企業です。一方、中国国内ではそれ程、知られていない(もちろん、知っている方もいらっしゃいますが)興味深い企業です。

彼らのこれまでのアフリカでの戦い方、その特徴・成功要因・課題等を調べることで、日系企業の振る舞い方に対して、多くの示唆を獲得することができると考えました。

グローバル大手企業ではなく、大手中国企業でもなく、もちろん日本企業でもない、スタート時点では小さな中国民営企業であったTranssion社。2006年創業から18年後の現在、アフリカの携帯電話市場で40%以上のシェアを持ち、アフリカで生産、ナイジェリア、ケニアに研究センターを保持、現在はアフリカから南アジアへ事業を拡大し、携帯端末からその他家電へと事業を拡大している企業に、なぜ成長できたのか?その理由を確認したいと思います。

Transsion社とは(概要)

アフリカの携帯電話市場のリーディングカンパニー。アフリカからアジア(南アジア)へ、携帯端末からその他家電へと事業領域を拡大中です。

【図3】アフリカの携帯電話以上のリーディングカンパニー、Transsion概要

【図4】アフリカでの事績をベースに、アジア地域への事業拡大。携帯電話以外への事業拡大中だが、未だ携帯がメイン

まず、最初の成功理由は、ありきたりですが、創業者の企業家精神と目の付け所の良さでしょうか。鼻が利く上に、ガッツがあり、素早く動く、という、中国をご存じの方なら、たくさん見てきた成功者だと言えます。創業者は、就職後10年間、中国民営の携帯端末企業でグローバル営業・マーケティング職で経験を積み、2006年に独立・創業。2007年にはアフリカ進出。初期の製品群を投入。2008年にはナイジェリアで第一号支店を設立し、アフリカに事業集中することを決意しています。

競争の少ない市場を嗅ぎ分け、そこに受け入れられる製品と、それを届けるマーケティング手法を編み出し、実際にスピーディに動く。言うは易く行うは難しだと、感服しております。

ちなみに、ですが、彼が経験を積んだBIRDという携帯ブランドは、2003年に私が中国で最初に購入した「格安」携帯端末でした。機能は制限されていましたが、通話はしっかりできる、格安携帯。思ったより丈夫で、通話だけなら全く問題ないという記憶があります。彼は、このBIRDでの経験から、製品(機能×価格)と市場のマッチングを見つけ出したようです。

 

Transsion創業者 竺兆江氏

創業者の竺兆江氏はグローバルな営業・マーケティング経験で、感性を磨き、競争の少ない成長市場に、スピーディに賭けました。

【図5】創業者の竺兆江氏

アフリカ携帯市場で支配的なポジションを獲得した後も、将来のアフリカ市場での機会(電力事情の改善と家電の普及)と脅威(携帯市場での競争激化)の両方の視点から、家電やその他電子製品への製品セグメントの拡大や、ネットサービスへの事業拡大を進めています。

そして、彼らのこれまでの大成功の原因は、圧倒的に受け入れられる(手の届く)価格と製品の品質バランスだったと言えます。

Transsion 製品・サービスラインナップと圧倒的価格競争力

同社は主要の携帯事業以外にも、アフリカの将来を⾒据え、その他電子製品や家電、サービス事業を展開。とにかく手の届く価格の製品を投入してきました。

さらに、価格だけではなく、アフリカ人のニーズを満たす機能をもつ製品開発・投入を続けることで、より強固なポジションを獲得してきました。彼らは、携帯電話ではアフリカ人向けに特化している5つの機能を喧伝しています。

【図6】メインの携帯事業以外にも、アフリカの将来を⾒据え、その他電子製品や家電、サービス事業を展開

【図7】ミドルレンジのフィーチャーフォン「TECNO」と格安フィーチャーフォン「itel」の圧倒的価格優位性でシェアを拡大

 

Transsion 製品のアフリカ人向け特化機能1~5

アフリカ人向けの製品スペックを常に模索。マルチSIM、充電機能、撮影アルゴリズム、コーティング、サウンド、など、言われてみれば、確かにそれは便利、という機能を提供しています。

製品×価格バランスが優れた製品を、実際に製造し、届けるためには、やはり、アフリカでの現地生産、さらに、アフリカにマッチした販売チャネル構築やプロモーション活動への注力は必須であったようです。 競合参入を見越して、参入障壁を築こうとしてきた努力を感じます。

【図8】アフリカユーザーの消費習慣や好み・ニーズに合わせた製品開発(1)MSMS

【図9】アフリカユーザーの消費習慣や好み・ニーズに合わせた製品開発(2)高圧快速充電・長時間待機

【図10】アフリカユーザーの消費習慣や好み・ニーズに合わせた製品開発3濃い肌色専用の撮影アルゴリズム

【図11】アフリカユーザーの消費習慣や好み・ニーズに合わせた製品開発4)抗酸性コーティング

【図12】アフリカユーザーの消費習慣や好み・ニーズに合わせた製品開発5)サウンド対応

Transsion アフリカ現地生産、販売チャネル構築、ブランド・プロモーション活動

PPT⑬~⑯ 価格競争力を出すためには現地で生産し(※組み立てメインだとしても)、オフライン代理店網を広く・細かく構築、物流に気を配り、ブランド構築に向けたプロモーション活動を続けてきました。

アフリカの携帯市場で大成功を実現したTranssion。これまでご紹介してきたとおり、正しい打ち手を打ってきたから、と言えます。一方、中国の携帯産業を見渡すと、巨大な競争相手が多数存在しており、Transsionの現在までのアフリカでの成功が、将来に渡って約束されている訳ではない、ということを、彼ら自身も認識しているようです。そこで、彼らは、既にご紹介した2つの打ち手を打っているのです。一つは、携帯電話以外の製品投入(その他電子製品、家電、サービス事業等)であり、もう一つは、アフリカ以外の類似エリア(主に南アジア、南米等)への参入です。とは言え、これも容易な道のりではないようで、これもご存じのとおり、インドでは特許紛争の当事者となっており、彼らの技術力に課題を抱えていることが明らかになりつつあります。

【図13】製造工場のアフリカ現地化を推進 “Think Globally, Act Locally”の理念

【図14】アフリカで最も強固なオフライン販売チャンネルを確立。主要成長市場は、エチオピア、ナイジェリア、エジプト、南アフリカ

【図15】十数年に渡る屋外広告(OOH)の活用と統一店舗イメージを維持したブランド戦略

 

【図16】アフリカ人の生活習慣や、大好きな音楽やサッカー試合を意識・活用した広宣/プロモーション手法

Transsion 今後の課題

アフリカでの大成功と将来の生存競争。彼らは、今、グローバル企業となるのか、アフリカ特化型(新興国特化型)企業として生き延びるのか、大きな岐路を迎えている可能性が高いと言えます。日本企業としては、自社でアフリカ市場に参入する際の成功事例として、多くの示唆を獲得できるのですが、さらに、彼らに足りないもの・課題を理解することで、アフリカ参入において、他社(場合によってはTranssionとも?)とのパートナーシップを考える材料にもなると言えます。その意味でも、もうしばらく、Transsionには注目していきたいところです。

【図17】他社との激しい競争を見越し、2016年からインド、バングラデシュ等の市場を開拓している

 

執筆:AAICパートナー(上海駐在)田中秀哉