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アフリカが抱える新たなリスク ー新型コロナの第二波は「アフリカの春」?

アフリカでは各国新型コロナウイルスの影響は一旦ピークを過ぎ、外出や渡航者の規制なども緩和されてきました。日本企業のアフリカ駐在員の方々も9月後半から順次駐在地に戻られています。私も今月よりナイジェリアのラゴスに赴任し、現地での業務を開始しております。アフリカではナイジェリアも含めた各国で新型コロナの二次的な影響とも呼べるような政治リスクが顕在化してきています。

ナイジェリア:警察特殊部隊SARSへの抗議活動(#EndSARS)が起こり一時ラゴス市内は無秩序な状態に
ナイジェリアでは先月の10月、1か月にわたって、政府の警察特殊部隊であるSARS(Special Anti-Robbery Squad「対強盗特殊部隊」)に対する抗議活動が全土で起きました。これまでSARSが一般市民を誘拐、脅迫、拷問などを行っているという批判は国内外でありましたが、10月初旬にソーシャルメディアにSARSが一般市民の青年を射殺した動画が流れたことをきっかけに抗議活動が始まりました。その結果、市民の過激なデモを抑え込むために警察官が発砲した銃弾によって死者が出るなど、20名近くの市民が殺害されました(アムネスティインターナショナルレポート)。これに対して、世界的に影響力のあるミュージシャンやアスリートなど多くの著名人もソーシャルメディア等で”#EndSARS”というハッシュタグをつけて発信し、さらに大きな動きとなりました。10月11日にナイジェリア政府はSARSの即時解散を発表しましたが、抗議グループは警察制度の抜本的な改革を求めるとともに、抗議デモ中に逮捕されたデモ参加者や被害者への賠償を求め運動はさらに激化しました。デモの混乱に乗じて、ラゴス市内の一部ホテル、銀行、スーパーなどで破壊、放火、略奪なども起き一時は無秩序状態となり、ラゴス州では10月20日から3日間の外出禁止令が出されました。10月22日にはブハリ大統領が一連の抗議活動に対して理解を示さず、「今後さらに抗議活動が続くようであれば軍を出動させる」という旨の演説を行いました。この演説に多くのナイジェリア国民がソーシャルメディア等で落胆のコメントを出しましたが、抗議グループ連合は本来意図していなかった、デモに乗じた略奪や破壊行為などを止めるために、「今後の抗議活動はオンラインを中心に行い、政府の今後の対応を注視していく」という旨の声明を発しました。根本的な問題の解決に至ってはいませんが、これにより、約1か月にわたって行われた#EndSARSのデモが沈静しました。現在ラゴス市内は驚くほど通常通りに動いている印象です。

「アフリカの春」が起こる?各国で起こる紛争、反政府運動
上記のナイジェリアのケースは新型コロナの影響で国全体がダメージを受け、政府が疲弊し、国民の不満が増大する中で、今まで保たれていたパワーバランスが変化する瞬間に起きた紛争と言えるかと思います。このような事例が同時期に他のアフリカの国でも起こったため、一部では2010年に起きた「アラブの春」になぞらえて、一連の反政府運動・紛争が各国へ波及し「アフリカの春」が起こる/始まったのではないかという話も出されています。日本・欧州では冬を迎え第二波、三波と新型コロナの感染者が増大していると連日報道されていますが、感染者数の第一波を越えたアフリカでは、違う形での新型コロナの第二波に直面しているとも言えます。2021年はアフリカの複数の国で国政選挙が予定されています。これらの選挙の前後で新たな火種ができる可能性もあります。
これらの各国で起こっている/今後起こる紛争は、ナイジェリアの事例でもあるように、国際機関や第三国の政府の介入、世界的に影響力のある著名人が声明を出したりと、もはや1つの国だけで完結する問題ではありません。各国個別の新型コロナによる影響、これまでの政治体制等とともに、アメリカの政権交代や新型コロナ後の中国の政策などグローバルな政治要因とも合わせてどのような形で今後「アフリカの春」が動いていくのか注視していく必要があります。

文章:AAIC 一宮暢彦