
本レポートでは、米国の相互関税とAGOA見直しを背景に、アフリカとの関係深化の好機を探ります。
●南アフリカと米国、首脳会談
2025年5月21日、南アフリカのCyril Ramaphosa大統領は、米国のDonald Trump大統領との首脳会談のためにワシントンD.C.を訪問しました。この会談の主な目的の一つは、2025年4月にTrump大統領が発表した南アフリカ製品への31%の相互関税措置に対する議論でした。
●米国の関税政策とAGOAの揺らぎ
2025年4月初旬、Trump大統領はグローバル全体を対象に相互関税(Reciprocal Tariffs)を導入する意向を発表しました。アフリカ諸国も例外ではなく、この方針に含まれたことで、各国の特恵的な輸出枠が事実上見直されることとなりました。これにより、アフリカ側でも強い懸念が広がっています。
AGOA(=African Growth and Opportunities Act)は2000年に米国により制定されたサブサハラ・アフリカ向けの通商優遇制度で、一定の政治・経済基準を満たす国に対し、米国への輸入関税を免除し、無税で市場アクセスを提供し成長機会を促すものです。現在は2025年9月末まで延長されています。AGOAの対象国は33カ国で、そのうち21カ国がLDC(後発開発途上国)、南アフリカ、ナイジェリア、ガーナなど経済規模の大きい12カ国も含まれます。
●アフリカ各国の対米輸出構造と関税影響
AGOAを通じたアフリカ諸国の対米輸出は年間170〜200億ドル規模であり、うち南アフリカ、ナイジェリア、ガーナ、コートジボワール、ケニアの5カ国で約9割を占めています。
米国依存度の観点では、マダガスカル、レソト、モーリシャスなどの国々は縫製品を中心に米国市場に依存しており、関税適用による直接的な影響が大きいとされています。
雇用の主要源である縫製業への打撃は、失業率や治安悪化にも波及するおそれがあります。マダガスカルのバニラ、モーリシャスの砂糖といった特産農産品も、今回の相互関税の影響下にあります。
一方、関税率が10%に留まるケニア政府にとっては、逆にこの状況をチャンスと見ており、Kenya貿易大臣Kinyanjui氏は「他の繊維輸出国が非常に高い関税を課されている中で、ケニアは調達拠点として新たな選択肢となり得る。我々の比較優位はむしろ高まっている」と述べ、米国市場でのシェア拡大に意欲を示しています。
●資源・製造国への波及
南アフリカはBMW、Mercedes-Benzといった欧州OEMの組立拠点があり、自動車関連製品の対米輸出額は10億ドル超。31%の関税が適用された場合、部品と完成車の競争力低下が避けられず、サプライチェーンの再構築や雇用への影響が懸念されています。
コートジボワールでは、対米輸出の約8割がカカオ豆、2割弱がゴム製品です。とりわけカカオは同国のGDPの約10〜15%を占める基幹産業であり、米国市場での価格競争力低下は農家への影響が大きくなる可能性があります。
ナイジェリアは、対米輸出の約9割を原油・石油製品が占めていますが、エネルギー品目は関税対象外とされているため直接的影響は限定的です。ただし、2025年4月にはブレント原油価格が1バレル60ドル近辺まで下落し、Nigerian Finance Minister Wale Edun氏も「影響があるとすれば、それは価格効果、すなわち原油価格の影響だ」と述べています。
●米国以外の影響力の強化と各国の攻勢
こうした対米関税の導入を受けて、アフリカ各国では米国への依存を見直し、輸出先の多様化や地政学的リスクの分散に向けた動きが既に出つつあるように見えます。コートジボワールでは、米国の関税措置を受けて欧州市場へのシフトを模索する姿勢が報道でも示唆されており、他のアフリカ諸国でも、同様に他地域への輸出強化を視野に入れた対応が進められていると考えられます。
こうした動きに呼応するかのように、中国はアフリカ諸国との関係をさらに深めつつあります。例えば、2025年4月22日から26日にかけて、ケニアのWilliam Ruto大統領が訪中し、習近平国家主席との会談で両国関係を「全天候型パートナーシップ」として格上げしました。この訪問に合わせて、総額10億600万ドルを超える民間投資プロジェクトが表明されました。また、ナミビアは中国との間で食肉輸出に関する衛生協定を締結するとともに、ナイジェリアは中国の国営企業NORINCOとの間で弾薬製造工場や装備整備の協力を進めるなど、経済・安全保障の両面で中国の関与が広がっているように見えます。
今後、アフリカの対外関係はアジア、中東、EUなど複数の地域を軸とした多元的な構造へと再編されていくことが見込まれます。その中で、各国の競争力や外交スタンスの違いが、より鮮明に浮かび上がってくるでしょう。
●日本企業への提言:今こそ戦略的関与を
アフリカ諸国は自律的な成長を模索しつつ、信頼できるパートナーとの長期的な連携が必須です。日本企業にとっては、今こそ現地の実態を見極め、中長期的な視点で関与を深めるチャンスといえるでしょう。
わたくしどもは、日本企業のアフリカ進出を支援すべく、市場調査、戦略立案、現地連携、M&A支援など多面的なサポートをご提供しています。ご関心をお持ちの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。
執筆:AAIC 南アフリカ法人代表 野村 悠里子
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