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小売販売の新しいかたち 「カーブサイドピックアップ」の可能性

昨年5月に実施したオンラインセミナー「先進国と新興国で動き始めたニューノーマル」では、コロナ禍におけるいくつかの潮流をご紹介させて頂きました。常時接続型の音声SNS「Clubhouse」の可能性、中小企業向けネットショップ「Shopify」の躍進、室内型エクササイズ「Peloton」の流行などを取り上げさせて頂いた中で、非接触型小売として各国で「カーブサイドピックアップの利用が伸びている」という事例もご紹介させて頂きました。本稿では、小売業界の取り組みの中で注目すべきひとつの例として、前回ご紹介から1年経った「カーブサイドピックアップの今」について取り上げたいと思います。

コロナ禍で顧客の利便性を高めたカーブサイドピックアップとは

「カーブサイドピックアップ」とは、オンラインで注文した品を店舗の駐車場で受け取るという購入方式であり、特に米国ではコロナ感染拡大前から導入が進んでいましたが、コロナ感染拡大によるオンライン注文ニーズの高まりなどを受けて急速に社会での実装が進みました(図1)。

図1 新型コロナ禍での新たなデジタル活動への適用状況(2020年4月時点)

オンラインで注文した商品を店舗で受け取る方式は、「クリックアンドコレクト」「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」などと呼ばれており、自分の都合の良いタイミングで商品を受け取ることができるなどといった点で、仕事や子育てで忙しい若い世代から支持されていました。カーブサイドピックアップは、顧客が直接カウンターまで商品を受け取りに行く従来の方式よりも、スタッフが車まで商品を持ってきてくれるという点で利便性が高く、BOPISの発展系として人気が高まっています。また、自宅配送と比べても、配送料がかからない上、コロナ禍ではEC需要の増加などで配送量が急増して配達遅延が生じていた中で、注文から受け取りまでの時間が短いカーブサイドピックアップを選択する人が増加しました。また、小売店だけでなく、レストランやカフェといった飲食店でも、従来のドライブスルーでは待ち時間が長いことが課題となっていたため、車で並ぶ必要のないカーブサイドピックアップが選択されることが増加しています(図2)。

図2 注文と受け取り方式別の買い物形式の比較

カーブサイドピックアップの基本的なサービスの流れは以下の通りです。
(1)利用者はオンラインで注文・支払いをし、その際に商品を受け取る店舗と受け取る時間を入力します
(2)その後、注文を受けた店舗で商品が準備されると利用者に通知が届きます
(3)利用者は指定時間に店舗駐車場などの指定場所に到着してから店舗スタッフに連絡をすると、スタッフが商品を車まで持ってきて荷台に積みます
(4)利用者が端末にサインをすると受け取りが終了します

米国を中心としたカーブサイドピックアップの導入事例

カーブサイドピックアップのメリットを改めてまとめてみます(*1)。

利用者にとってのメリット(*2):
・商品を探す手間が省ける
・重い荷物を車まで運ぶ必要がない
・車を降りて店内に行く必要がない
・配送料がかからない

店舗側にとってのメリット:
・オムニチャネル戦略の強化で売上増(※)
・コロナ禍で三密リスクを回避
(※)
忙しい利用者やコロナ禍でのニーズを捉えた購入方法を提供することで、売上増につながっています。また、88%のアメリカ人が店舗とECをともにもつ小売店で買い物をしたいと望んでおり、実店舗とオンラインとのフリクションレスな購買経験が求められています。

このようにカーブサイドピックアップはメリットが大きく、モータリゼーションが進んでいる米国中心に導入が進んでいます。
最も先進的な事例としては、米Walmartがあげられます(*3)。米Walmartでは2013年12月に実証実験を行ってから2015年に本格導入し、2020年末時点では米4,674店舗中3,300ヶ所以上で導入しています。導入店舗では、35ドル以上の購入に対しては手数料無料で利用可能であり、購入後4時間以降での受け取りが選択できるようになっています(16時以降に注文した商品の受け取りは翌日)。
同社は2020年売上高が前年比6.7%増と、Amazon社のライバルとしてコロナ禍でも好調を維持していますが、売上増にはカーブサイドピックアップも大きく寄与しています。2020年2月以降にはカーブサイドピックアップ専用駐車場の敷地を30%増設しており、売上高を74億ドル増加させる可能性があるとの試算もなされています。同社売上の3割近くをオンライン注文が占めており、その中でもカーブサイドピックアップ利用者が急増していると報告されています。
他にも米国では、Nordstrom、Target、CVSファーマシーなどといった小売大手に加えて、マクドナルド、Pizza Hutといったファストフード大手などでも導入が進んでいます。また、日本でもコロナ感染拡大の中で、イオンリテールや高島屋などで導入されており、イオンでは「ドライブピックアップ!」サービスという名称で180店舗にて提供されています。

一方で、カーブサイドピックアップ導入を検討する際には、以下の3点に注意する必要があるでしょう(*4)。
・従業員の余裕があるか
・ピックアップ用の駐車スペースがあるか
・在庫管理や注文管理などをするデジタルインフラがあるか

店舗側の課題を解決し、快適な購入経験を提供するためのソリューションが登場

このように、カーブサイドピックアップは利用客にとって利便性が高く、店舗側にとって売上増のチャンスとなる一方で、その安定した運用は難しく、利用者の購入経験の質が低くなって顧客離れを招く可能性もあります。このような店舗運営の課題の中でも特に顧客の利便性に関わる、到着時間の制約や待ち時間の発生といった課題を解決するために、いくつもの企業がデジタルソリューションを提供しています。

・Radius Networks
2011年に創業し、位置情報を活用した各種ソリューションを企業に提供している米企業です。同社の提供する「FlyBuy Pickup」は一般消費者向けのスマホアプリと店舗スタッフ向けのダッシュボードをクラウドサービスとして提供し、30,000地点以上でカーブサイドピックアップサービスの提供をサポートしています。FlyBuy Pickup導入企業のEC上で利用者が注文し、カーブサイドピックアップを選択すると、利用者が店舗に近づくと予想到着時刻が店舗スタッフに通知され、タイムリーな商品受け取りが可能になります。また、商品の受取完了をアプリ上で発行するので受取サインが不要になり、コロナ禍での非接触ニーズに対応しています(図3)。

図3 FlyBuyの提供ソリューション

・Rakuten Ready
2013年に創業した位置情報技術スタートアップCurbside社を2018年に楽天が買収し、現在はカーブサイドピックアップアプリ「Rakuten Ready」として提供されており、小売店やレストランチェーンなど4,000地点以上で導入されています(*5)。顧客の予想到着時間を店舗スタッフに通知して待ち時間を減らすという機能はFlyBuy Pickupと同様ですが、加えて、実店舗を持つ事業者を対象に、楽天IDで事前注文・決済サービスを自社サイト上で構築できるソリューションを提供しています。これらは楽天経済圏の一部として機能し、日本でも上島珈琲店などが導入しています。

カーブサイドピックアップの今後の可能性

コロナ禍のユーザー体験がきっかけに国内外で急速に広まりつつあるカーブサイドピックアップですが、「オンラインで注文したら自宅で受け取る」という従来は当たり前のニーズと考えられていたショッパー体験が、本当は「自分で取りに行きたい」という確かなニーズがあることを証明した形となりました。
小売店舗から見ると、カーブサイドピックアップ注文が増えるということは商品の事前予約が増加するということを意味し、注文から受け取りまでの時間に取引業社に商品を納入してもらうというサプライチェーンを構築して無駄な店舗在庫を減らしたり、各時間帯のスタッフ人数を調整しながら商品ピックアップしやすい店舗設計を行ったり…、これらの最適化を通じて客単価の向上やリピート注文を増やせるなど、新たな価値創出の可能性がありそうです。

出所
*1 ネクストデジタル(https://next-digital.jp/curbside-pickup/
*2 Sufio(https://sufio.com/blog/curbside-pick-up-coronavirus-shopify/
*3 Forbes(https://forbesjapan.com/articles/detail/26770/1/1/1?s=ns
*4 Parcel Pending(https://www.parcelpending.com/blog/what-is-curbside-pick-up/
*5 流通新聞(https://www.ryutsuu.biz/it/l122043.html

トップ画像出所:Openbravo(https://www.openbravo.com/blog/contactless-fulfillment-is-curbside-pickup-the-new-bopis/

文章:AAIC Japan 難波昇平

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