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コロナ禍でも成長!「東南アジアにおいて資金を集めた産業とスタートアップ」

新型コロナウィルスのパンデミックが始まって以来、およそ1年半が経ちました。2020年は各国、各産業でニューノーマルが盛んに議論され、大きな変化のあった1年となりましたが、今回は東南アジアに着目し、2020年に大きく投資を集めた、もしくは大きく成長を見せた産業領域といくつかのスタートアップをご紹介します。

東南アジアで大きな資金を集めた産業領域

図1に東南アジアにおける産業領域別の資金調達額の総和を示します(*1)(注)。2019年から上位の顔ぶれに大きな変化はなく、Financial Services(金融サービス)やCommerce and Shopping(EC等の商業・買い物サービス)が上位を占めますが、Transportation(輸送サービス)については大きく順位を上げています(2019年の調達額は15位でした)。これは、コロナ禍でのECの発展や、従来型小売・レストランでの宅配サービス開始の他、ヘルスケア領域など幅広い領域で伸びたB2B EC領域の成長のためと考えられます。以降、コロナ禍で成長したいくつかのサービスを紹介します。

図1 2020年東南アジアの産業領域別資金調達額の総和ランキング(M USD)(注)

中小企業向けレンディングサービスを提供するValidus

コロナ禍ではより成長した企業も、そうでなかった企業も、新たな取り組みへの投資資金や企業の運転資金などで強い資金ニーズがありました。そんな中、中小企業にフォーカスし、自社や認定された貸金業者と中小企業を結びつけるP2Pの融資プラットフォームを提供するValidusは大きな成長を見せました。東南アジアでは、商品・サービス提供後、通常30日~120日程度支払いに時間がかかります。手元資金に余裕のない中小企業では、振り込みがあるまでの運転資金や新たなプロジェクト受注が出来ないといった課題がある中、Validusでは請求書や契約書情報を元に無担保で資金を前払いするInvoice Finance機能を提供することで、その問題を解決しました(*2、図2)。Validusは申請があると、48時間以内に審査を完了させ、翌日までに1%~といった低金利で最大50万ドルを入金します。Validusのユニークなところは比較的信用力の高い大企業や政府関連団体を最終購買者とする中小企業向けの法人向けベンダー・ファイナンスに注力しているところで、コロナ禍での無担保融資の承認実績は、前年比で50%(最初数か月の初速)成長。さらに、パンデミックの最前線で活躍するヘルスケアや製薬業界、物流やクリーニングサービスなどの中小企業への支援を強化したことで、2020年4月には、平均25万ドルから50万ドルの融資を複数回行い、不足しているフェイスマスクやその他の保護具の需要の対応をタイムリーにバックアップできたとのことです(*3)。

図2 ValidusのInvoice Financeの仕組み

B2B ECを支援するKYKLO

東南アジアでは、コロナ前からB2B ECは大きく成長する見込みでしたが、コロナの影響でよりオンライン化が加速しました(*3、図3)。例えば、KYKLOは電気・自動制御分野のBtoB業者向けのEコマースプラットフォームを提供するスタートアップで、これまで分厚いカタログで無数の製品を扱っていたディストリビューターやメーカー向けに、簡単にWebストア化する仕組みを提供しました(図4)。D2C分野でShopifyやBaseが躍進したのと同様に、ABBや三菱電機といった大手メーカーやそのディストリビューターのDX化を実現しています(*4)。

図3 東南アジアにおけるB2CとB2BのEC市場予測(M USD)


※2020年以降の予測はコロナ発生前の予測

図4 KYKLOによるB2Bウェブストアの構築イメージ

東南アジアで多くの企業が資金調達をした作業領域

一方で、調達額の絶対額としては大きくないものの、資金調達した企業数の成長率を見ると、異なる角度から社会トレンドやコロナの影響が見て取れます(*1、図5)。調達額の総和としては10位以下であったSustainabilityやEnergyといった環境関連の産業領域が上位を占めています。国際環境NGO団体グリーンピースが実施した環境問題への意識調査では、「新型コロナウィルス感染症の流行の前に比べて、環境問題や環境に配慮した持続可能な暮らしに、より関心を持つようになった」と回答した人は回答者全体の半数以上にのぼっており(*5)、世界的なトレンド同様に、東南アジアでも今後の成長領域として資金を集めたようです。以降、コロナ禍で成長したいくつかのサービスを紹介します。

図5 東南アジアの産業領域別資金調達企業数の成長率ランキング(M USD)(注)


※2019年と2020年の対前年比で、資金調達した企業数の伸び率の大きな15産業領域を抽出

エネルギー管理ソリューションでスマートホテルを実現するSensorFlow

Sensor Flowはシンガポールを拠点とするプロップテック(不動産テック)で、ホテルを顧客にIoT機器とソフト×AIで、HVACシステムの最適化を図り、室内のエネルギー効率を向上することで最大年間30%程度の省エネ効果を実現するスタートアップです。故障予測やメンテナンスに関する示唆の他、顧客向けのスマートなホテル体験(滞在者による温度調整等)もリーズナブルな価格で実現し、これまで東南アジアの約10,000のホテルルームと契約し、2019年以降のホテルルームへの導入件数は1,000%増を記録、成長中の企業です(*6、図6)。

図6 Sensor Flowのソリューション導入顧客例

持続可能なレストラン/ブランドと消費者をつなぐプラットフォームabillion

最後に紹介する企業はビーガンレストランや消費財店舗などの持続可能なレストラン/ブランドを紹介するサービスで、レストラン/ブランドは自分のお店を登録し、消費者はそのレストラン/ブランドにレビューをつけることが出来ます。面白いのは、消費者が1レビュー投稿するたびに、50の動物保護や栄養改善等に関する団体から選択した組織へ1ドル寄付される仕組みがあることです(図7)。これまで4万店以上の消費財ブランドと5万店以上のレストランが登録しており、130カ国以上30万人以上の人々がアンバサダーに登録し、レビューを投稿しています。abillionはコロナ禍で厳しい経営に直面したビーガンレストランを救うための募金を集め、レストラン存続のための支援も実施しています(*7)。

図7 abillionの利用プロセスイメージ(店舗側:上、消費者側:下)

 

(注)
Crunchbaseから2019年および2020年に資金調達した企業をそれぞれ取得。Crunchbaseで定義されたIndustry Groupsごとの集計。ただし、Industry Groupsは1つの企業に複数のIndustryが設定されるため、資金調達した企業数の総和と企業にタグ付けされたIndustry Groupsの総数は一致しない(重複カウントが存在)。なお、Industry Groupsには特定産業ではなく、汎用的な活動領域も含まれており、表中ではそのような領域の棒の色を灰色とした。

*1 Crunchbase(https://www.crunchbase.com/)※東南アジア6か国を集計
*2 Validusウェブサイト(https://validus.sg/)
*3 Global Markets “Global E-Commerce Market 2019”, Euromonitor Passport
*4 KYKLOウェブサイト(https://www.kyklo.co/)
*5 Loops Style記事 「コロナ後の日本人の環境意識の変化は?」
*6 Sensor Flowウェブサイト(https://www.sensorflow.co/)
*7 abillionウェブサイト(https://www.abillion.com/)

トップ画像出所:Adobe stock

文章:AAIC Japan 難波昇平

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