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コロナ禍で新興勢力が大躍進?! アジアのEC最新事情

日本でECといえば楽天やAmazon、もしくはC2C型のECであればメルカリなどを挙げる人が多いと思いますが、アジアでECといえばどこを思い浮かべるでしょうか? アリババ傘下のLazadaやインドネシア大手のTokopediaなどをご存じの方は多いかもしれません。ところがこの1年で各国のECシェアに大きな変化が出始めています。今回は、この1年で大きな変化のあった、「大躍進したECプレーヤー」と「ECの新しいビジネスモデル」の2つについてご紹介させて頂きます。

ゲーム会社からの転身? Shopeeの躍進

ゲーム好きの方であれば、GarenaのFree Fireという名前を聞いたことがあるかもしれません。Garenaは社名をSea Ltd.に変更の上、2017年にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場していますが、祖業のデジタル・エンタメ事業(DE事業)である「Garena」の他、デジタル決済事業の「AirPay」、そしてモバイル向けEC事業の「Shopee」の3つを主要事業として展開しています。

Shopeeは2015年にサービスを開始し、近年は東南アジア各国で目にする機会が増えました。例えば、2020年3Q時点のシンガポールのECランキングを見ると、Lazada、Qoo10、Amazonといった大手を抜いて1位となっています(図1、サイト訪問者ベース)。同様にアジア各国のECランキングを見ると、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンで同様に1位となっており、この1年で多くの東南アジアの国でNo.1の座を獲得しています(図2)。全世界の流通総額(GMV)で103億USD以上、売り手は800万件、買い手(利用者数)は2億人以上で、そのうち45%程度はインドネシアにおける取引と言われています。

図1 シンガポールのECランキング(サイト訪問者ベース)

(出所:iPrice Insights)

図2 東南アジアのECランキングの推移(サイト訪問者ベース)

(出所:iPrice Insightsより、AAIC作成)

Shopeeが東南アジアの人々にうけている理由は色々あると思いますが、大きく3つにまとめてみたいと思います。1つ目は日本のメルカリのようにモバイルファースト、ソーシャルファーストを徹底している点です。先進国と異なり、PCよりもモバイルが先に普及した東南アジアでは、モバイルのユーザー体験は重要で、Shopeeのトランザクションの90%以上はモバイルアプリ経由と言われています。このため、Shopeeでは、ライブチャット(メルカリの値段交渉のようなもの)やShopee Live(ライブストリーミング)といった機能が盛り込まれている他、DE事業で獲得したゲーミフィケーションのノウハウも随所で活用することで、モバイルを通じたユーザー体験を最適化しています。2つ目は、徹底したローカライゼーションです。国ごとに専任スタッフを配置の上、アプリは国ごとに独立させ、市場に合わせて異なるデザインとしています。例えば、ムスリム向け製品のカテゴリを用意したインドネシア、購買決定要因になりやすいセレブの購買に着目したベトナム、ブランドアンバサダーに投資しているタイなどです。その他、「Shopee大学」を提供するなど、売り手側のサポートも強化しています。3つ目は、積極的なプロモーション活動です。例えば、送料無料、各種割引、フラッシュセールなどを、各国インフルエンサーやメディア/SNSとの提携で積極的に実施することでユーザーを獲得しています。また、ポイント制度やデイリーチェックインなどの取り組みがリテンション向上に寄与していると考えられる他、自社の決済/金融事業による買い手(消費者)と売り手向けの支援なども、アジアのユーザーから大きく指示されている理由の1つと考えられます。

ただし、SeaのIR資料によると、FY2019の売上は$2,917 Mn、その内訳はDE事業が約60%、EC事業が32%となりますが(図3)、EBITDAを見るとDE事業の儲けのすべてがEC事業の赤字で帳消しとなっています(図4)。DE事業に続く事業の柱とすべくEC事業ではしばらく投資ステージが続いていましたが、各国で1位となった2020年を境に、Shopeeが今後どのように利益を上げていけるか見どころとなります。

図3 Sea Ltd.の売上とEBITDA(FY2019)

(出所:Sea Ltd. IR資料 “Fourth Quarter and Full Year 2019 Results”)

図4 Sea Ltd.のEBITDA

(出所:Sea Ltd. IR資料 “Fourth Quarter and Full Year 2019 Results”)

新たなECモデル「S2b2c」

今年、雲集(Yunji)がナスダックに上場しました。雲集はECを展開する中国企業ですが、中国の巨大ECである天猫(Tmall)、京東商城(JD.com)、淘宝網(Taobao)が存在する中、なぜ雲集は創業5年という短期間で上場できたのでしょうか? それは、B2BでもB2CでもC2Cでもない、彼らが展開する新しいビジネスモデルである「S2b2c型EC」が中国のユーザーに大きく受け入れられたからです。

S2b2cとは、Supplier to Business to Consumerの略で、大手サプライヤー(Supplier)が準備した商品を、店主である販売者(Business)が、エンドユーザー(Consumer)に販売するというモデルです。これは、サプライヤー(S)は商品の仕入れ、物流、アフターサービスなどの運営にフォーカスし、販売者(B)は自身が網紅(ワンホン、≒インフルエンサー)やKOL(Key Opinion Leader)として商品を積極的に販売する役目を担い、これをエンドユーザー(C)が購入するという分業モデル型のECのことです。中国では従来より微商と呼ばれるSNSを活用した個人売買が盛んで(WeChatでも同名の機能を提供しています)、これを雲集がうまく仕組み化しました。雲集は、誰でも有料会員になることで販売者(B)になることができ、友人を有料会員へ招待する他、会員数や売上の増加に貢献することで更なる報酬が得られる仕組みを提供するプラットフォーマーとして成功したと言えます(図5)。
この仕組みはネットワークビジネスに近しいモデルであり、実際に雲集は、ねずみ講禁止条例違反で約1.5億円の罰金を科せられたこともあり、グレーゾーンのビジネスモデルと見られたこともありました。しかし、ビジネスの透明性を挙げるとともに、妥当性のあるインセンティブ設計をすることで、無事今年上場することが出来ました。

アリババがS2b2c型ECである“Taoxiaopu”の準備を進めるなどしていますが、S2b2c型ECに関する今後の他社の動向や他国への展開可能性は注目していくべきポイントだと考えています。

図5 雲集のモバイルアプリ画面

トップ画像出所:iStock

文章:AAIC Japan 難波昇平

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