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「実は日本人は答えを知っている! タイムマシン・マップの威力」 椿 進

本でも書きましたが、新興国でのビジネスにおいて、日本人にとって大きな優位な点があります。それは「実は日本人は答えを知っている」ということです。新興国のどの国・都市でも一人当たりGDPで見ると、日本の成長の軌跡をほとんど同じことがおきているのです。

あるときエチオピアで、早朝、銀行の前に人だかりがしている光景を見ました。何をやっていたのかというと、公団住宅の抽選です。そこに並んで抽選をして、当たって頭金10%程度積んだら公団住宅が買えるそうなのです。
これが大人気で、毎朝すごい行列になっている。当然だと思います。絶対に値段が上がるからです。エチオピアだと、3~5年で2倍になるそうです。50㎡で300~400万円程度。これが、値上がっていくのです。

実はこれと似た光景が50年前、日本でも繰り広げられていました。もっとも日本では、抽選は銀行の前ではなく、はがき抽選でした。典型的な例が、多摩ニュータウンなどです。1970年代初頭の売り出し価格は約400~800万円。そして5年程度で約2倍になったそうです。

多摩ニュータウンの開発が決定した1966年前後は、日本の一人当たりGDPがちょうど1000ドルを超えた年です。面白いことに、後のアジアでもアフリカでも同じなのですが、一人当たりGDPが1000ドルを超えると、中所得者向けの公団住宅(新興国ではアフォーダブル・ハウジングという場合が多い)を国が整備し始めるのです。しかも、決まって値段は400~500万円ぐらいから。

そしてこのような共通事項は、公団住宅だけに限りません。新興国と日本との一人当たりGDPによる「時代換算マップ/タイムマシン・マップ」が描けるのです。

注意しなければならないのは、一人当たりGDPを国と首都とで分けて考えることです。新興国では首都のほうが国全体より3倍程度高くなります。アフリカでもまだ7〜8割の人は農村に暮らしており、それを入れた平均だと低くなります。これだとマーケティングを間違えることになります。首都で見ていくのが大事です。

また、最初の大きな目安が「一人当たりGDP1000ドル」。多摩ニュータウンだけではありません。1000ドルを超えると、新幹線や高速道路など都市のインフラづくりが本格化してきます。
そして「1000ドル」ラインを超えるとスーパーマーケット・ショッピングモールの開業が始まり、中古車やバイクが普及してきます。そして、地方から若者が続々と都市に流入してくる。いわゆる都市化の始まりです。土地の値段もこのあたりから急速に上昇します。
実際、エチオピアは大規模な公団住宅だけでなく、高速鉄道や高速道路ができました。国でいえばウガンダ、セネガル、都市でいえばタンザニアのダニエルサラームやコンゴのキンシャサなどで同様のことが起きています。

日本は再び世界からのインバウンドで溢れる

次のポイントは、「3000ドル」ラインです。日本では1972年頃です。このラインは外食元年でもあります。日本でマクドナルド1号店ができたのが、1971年の銀座。すかいらーくの1号店も1970年です。
ケニアのナイロビが、2014年ごろに3000ドルを超えました。その頃、ケンタッキーフライドチキン、ドミノピザ、コールドストーンが進出してきました。ちょっと遅れて、バーガーキングができました。
3000ドルを超えると、大型ショッピングモールも出てきます。当時、私は子供で横浜に住んでいましたが、日本最大のダイエー戸塚店がこの頃にオープンしたのをよく覚えています。
巨大なアドバルーンと店内のダイエーの歌は鮮烈な思い出です。1000ドルまでは中古車やバイクですが、3000ドルを超えると新車(乗用車)が売れ始めます。カラーテレビ、クーラーなども売れ始めるタイミングです。当時「3C」といわれていました。
アフリカで3000ドルラインにあるのが、ナイジェリアのラゴス、国でいえばエジプトやモロッコです。

次のポイントが「1万ドル」です。日本でいうと1980年あたり。消費文化が爛熟・多様化してきます。日本では東急ハンズ渋谷店(78年)ができ、渋谷の109(79年)ができ、東京ディスニーランド(83年)ができた。1万ドルを超えると、こういうものにお金を使えるようになるのです。
スーパーやデパートで買い物するだけではなく、ちょっと変わったものが欲しい、カッコイイものがほしい、となって新しい文化が生まれるのです。それが「1万ドル」ラインです。
1万ドルでは、海外旅行も一気に広がります。ちょうど今(2020年)、中国が国全体で1万ドルに届こうとしていますが、海外旅行がさらにブームになっていくでしょう。
日本では、海外旅行者が1986年に500万人を突破、1990年に1000万人を突破と、たった4年間で2倍に伸びました。スキー場などのリゾートでのレジャーが本格化するのも1万ドルライン。
中国の都市部ではもう2万ドル以上になっているので海外旅行ブームがすでにきていますが、これから全土で1万ドルを突破して、全土レベルでブームが広がるでしょう。それを考えると今後、インバウンドは新型コロナ前のレベルでは済まない。
とんでもない数の中国人が日本に来るでしょう。人口は13億人。いままでの5~10倍、日本に来てもおかしくない。
「新型コロナってなんだったんだ」と言われるようになるには4〜5年かかると思いますが、日本のインバウンドは大きな可能性がまだたくさんあると思います。
アフリカで1万ドルのレベルに達しているのは、南アフリカの首都・ヨハネスブルグと、豊かな石油資源を持つボツワナ、リビアです。

日本人は、これからアフリカで起きることを知っている

時代換算マップを作っていて、改めて感じたのは、あらゆる世界の国が、国で3000ドル、都市で1万ドルはほぼ到達できるのではないか、ということです。戦争・内戦をせず、政治がある程度しっかりしていれば。それだけ、人類に叡智がついていると思います。

もともと、近代工業化は欧米にしかできないと言われていた時代もあったのです。100年前の植民地時代はそのように考えられていたようです。ところが、日本が欧米以外で初めて近代工業化に成功しました。

そして戦後しばらくして、NIESと呼ばれていた台湾や韓国が近代工業化を成し遂げ、次に中国、さらには東南アジア、インドも近代工業化を実現させていった。非欧米諸国だから経済発展できないなどということは、ありえなくなったのです。人種や歴史や国民性は関係がなかった。

あらゆる国が一定レベルまでの経済発展が可能だと思います。世銀だったり、IMFだったり、コンサルタントだったりがそのためのノウハウを持っている。そして多くの人たちに「豊かになりたい」という根源的なモチベーションがある。

日本のように2次産業の輸出から立ち上がったり、資源で引っ張ったり、成長パターンはさまざまで、時間軸も国によってまちまちかもしれません。でも、国で3000ドル、都市で1万ドルまでは行ける。伸びていく。

そして一足先に3000ドル、1万ドル、2万ドルをこの50年で体験してきた日本人は、実は、どのタイミングで何が起きるかを、よく分かっているはずなのです。

ファッション雑誌を出すのであれば、どのタイミングなのか。1万ドルなら、どんなものが必要とされるのか。そうした経験やノウハウを、もっと活かすべきです。同じようなことがこれから起こる国々がたくさんあるのですから。

中国でも、東南アジアでも、インドでも、ほとんど同じタイミングで、同じことが起こっています。これはアフリカにも必ず起きるはずです。もっと復習をして、アフリカでビジネスを推し進めていくべきなのです。答えはわかっているはずなのですから。
振り返れば、私が生まれた頃は、日本はまだ一人当たりGDPが1000ドルの国でした。そのあたりから高度成長を経て、奇跡と言われる凄まじい成長を遂げていった。円も強くなった。当時は、あちこち工事だらけでした。

しかし、3万ドルを超えたあたりで、日本は完全に足踏みをしてしまいました。マンションを買ったら、数年後には2倍、3倍となっていた時代から、今や値上がりどころが目減りしてしまうことが当たり前になった。

ちなみに、米国はそうではありません。1990年に買った家が、2020年には4~5倍になっていまる。株もここ30年間で日経平均は横這い、NYは約9倍です。平成30年間で、日本は完全に国のかじ取りを間違えたということです。資産も増えず、給与も上がらず、経済成長も低水準のままだった。そして、世界の一人当たりGDPランキングも、30位近くまで順位を落としてしまった。

3万ドルまではうまくいったけれど、そこから先のビジネスモデルを構築できなかった。得意だった家電・携帯・半導体などのモノづくりで韓国・中国に負け、GAFAのような新しい事業も生み出せなかった。ここからいかに新たな経済モデルを作れるか。今、日本はそれが問われていると思います。

ぜひ、皆さんと一緒にこれを打破して、ウエルビーイングな社会を実現したいと思っております。

椿 進

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