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アフリカスタートアップ、 2022年はケニアに注目!?

2022年も3ヶ月が経ちましたが、アフリカスタートアップの勢いはどうでしょうか?3月1日時点で累計11.2億USドル(約1,360億円)を調達*しており、単純に6倍すると年間で8,000億円、過去最高を記録した昨年を超える勢いです!

特に注目したいのが、勢いを取り戻してきたケニア。今回は前半で2021年までのトレンドをおさらいしてから、後半で今年のスタート(第1四半期)について触れたいと思います。そして、ロシアによるウクライナ侵攻の影響についてもコメントします。
*Disrupt Africa調べ

2021年は件数・金額ともにアフリカのスタートアップにとって記録的な年

2021年のアフリカスタートアップの資金調達に関しては、2022年1月後半から2月にかけて複数のレポートが公開されていますが、ここでは2015年から継続的にデータを発表しており、且つVCとしても活動しているPartechのレポート「2021 AFRICA TECH VENTURE CAPITAL」の数字を使います。

まずは2015年から2021年にかけてのアフリカスタートアップの資金調達推移を見ていきます。

図表1:アフリカスタートアップの資金調達推移(2015ー2021年)


*図表はAAICに帰属

図表1からも分かるように、2021年は金額ベース(左グラフ)、件数ベース(右グラフ)共に過去の記録を大きく上回った年でした。成長率では、アフリカが世界の他のどの地域よりも大きく成長しました。

私がケニアに赴任したのが2015年でしたが、資金調達額を振り返ると2.7億ドル(約320億円)、いわゆる黎明期でした。その後成長し、今では有名になっているスタートアップが既に活動していましたが、今日のように毎日アフリカ企業の資金調達額についてのニュースを目にするような状況とは全く異なりました。

因みに、2021年のアフリカ全体のスタートアップ資金調達52.4億USドルは、同年のアメリカの2%にも及びません。「小さ過ぎるのでは?」という意見もありますが、それだけ伸びしろがあるとも捉えられ、事実アメリカの大手VCもアフリカスタートアップに投資を始めています。例えば、2022年2月にはAAICの投資先であるReliance Health(デジタル保険などを提供)にアメリカVCのAtlantic Venturesが4,000万USドルのラウンドをリードしました。また、ご参考までにですが、2021年の日本のスタートアップ資金調達は7,801億円(68億USドル)と、アフリカ全体とそれ程変わらない状況でした。
* INITIAL 2021国内スタートアップ資金調達動向調べ

次にセクター別にみていきます。2020年に続きフィンテック(Fintech)が抜けてます。但し、フィンテックはどのセクターにも関わる社会のインフラであるため、当然の結果とも言えます。フィンテックに続き、コロナ禍でDXが進んでいる物流(Logistictec)、EC(Electronic/Mobile/Social/Commerce)、ヘルス(Healthtech)が上位に入っています。

図表2:アフリカスタートアップ セクター別資金調達割合(2021年)


*図表はAAICに帰属

最後に国別ですが、Partechのマップが見やすいのでそのまま拝借します。ナイジェリアが18億USドルでトップ、それに南アフリカ8.3億USドル、エジプト6.5億USドル、ケニア5.7億USドルと続き、上位4か国でアフリカ全体の74%を占めます。これも従来の傾向と同様ですが、ケニアがトップ3に入らなかったのは、レポートが発表されて以降初めてのことでした。国で金額を競い合っているわけではないですが、在ケニアの投資家の間では残念な結果となりました・・・。

図表3:アフリカスタートアップ 国別資金調達割合(2021年)

出所:Partech 「2021 AFRICA TECH VENTURE CAPITAL

冷静にGDPをナイジェリア、南アフリカ、エジプトの上位3ヶ国と比較すると、いずれもケニアの倍以上ありますのでおかしな話ではないのですが、要因としては、国外起業家・投資家の影響が比較的大きいケニアでは、コロナの影響がじわじわと出てきたと考えています。ケニアからいなくなってしまった欧米人起業家も・・・。

2022年、ケニアの巻き返しを期待したいですが現状はどうでしょうか?

2022年1-2月は好調なスタート。ケニアは第2位!

冒頭でも触れましたが、今年は3月1日時点でアフリカスタートアップは計11.2億USドル(約1,360億円)を調達しました。トップは変わらずナイジェリアですが、第2位はケニア。2億USドル以上を調達し、全体の約20%を占めています*。件数も20件を超えていますが、特に大型案件が目立ちます。以下は今年に入って、1,000万USドル以上調達したケニアのスタートアップの一覧です。
*TechCable調べ

図表4:ケニアのスタートアップ資金調達一覧(2022年1ー3月、調達金額1,000万USドル以上)

*出所:Crunchbase、Briter Bridges、Tech Crunch

ユニコーン入りが見えてきた、ケニア発のEコマース(B2Bリテール)Wasoko

1億USドル以上を調達したのがWasoko(ワソコ)。あまりピンとこない方もいらっしゃると思いますが、Sokowatchが今回の資金調達を機にリブランドしたもので、卸とキオスクなど比較的小規模な小売店を繋ぐEコマースプラットフォームを提供しています。創業から累計250万オーダーを配達し、サプライヤー180社、5万以上の小売店を顧客に抱えています。社員数も1,000人を超えています。おそらくプラスの効果が大きいと判断したためかバリュエーション(企業価値)も同時に公表されており、資金調達後で6.25億USドル。ユニコーン(企業価値が10億ドル以上)が見えてきました。今回のラウンドのリードであるTiger GlobalとAvenir Growth Capitalは昨年ユニコーン企業になったFlutterwaveの投資家でもあります。これまでに、アフリカでは9社のユニコーン企業が誕生していますが、意外なことにまだケニアでは1社もありません。Wasokoに期待がかかりますね。

同社は現在、ケニア、ナイジェリア、ウガンダ、タンザニア、ルワンダで事業を行っており、近年コートジボワールやセネガルにも展開、東アフリカからパン・アフリカのスタートアップになるべく動き出しました。それに伴い、各国で発音し易いWasoko(「people of the market」という意味)にブランド名を変更。因みに、創業者兼CEOのDaniel YuはTechCrunchのインタビューでナイジェリアについては、マーケットの不安定さなどを理由に慎重なコメントをしています。この点、他のケニアのスタートアップからも同様の意見を聞くことがありますが、仮に現地の有力な人材を雇用するにしても、外から入るのは簡単ではないマーケットです。また、同社のサービスはEコマースのプラットフォームに「buy now, pay later(後払い)」の仕組みを導入、小売店の運転資金の課題を解決しています。これが、競争の激しいB2BリテールのEコマースにおいて、スティッキネス(Stickiness、ユーザーを熱中させる)に繋がっています。

一覧にあるその他の企業を見てみると、2018年に設立されたMarketForceを除いて、M-KOPAなど2010ー2015年に設立された企業が並びます。セクターも分かれており、最近目立つフィンテック(Fintech)のような急成長ではないものの、着実に事業を拡大し、資金調達を重ねてきたと言えます。2022年はまだ始まったばかりですが、ケニアでは現在、第2四半期をターゲットとした案件の交渉が行われている最中でこの後も成長が期待されます。

最後に、「ロシアによるウクライナ侵攻の影響は?」と聞かれることがありますが、足元はそれほど影響を感じていません。他の投資家と話していても、大きな方向転換をしているところはありません。それもある意味当然で、VCやPEはすでにファンドの出資者からのコミットメントがあるので投資できる金額が減少するわけではなく、決められた投資期間(3-4年)に資金を投資してしまう必要があります。一方で、現在ファンドを立ち上げている場合は直接的に影響を受けますので、それが将来響いてくる可能性はあります。また、スタートアップ側の影響としては、予定していた資金調達(エクイティラウンド)を後ろにずらし、ブリッジファイナンスに切り替えたケースが出てきています。少なからず投資家にネガティブな影響が出ていると考え、仮に調達できたとしてもバリュエーションが想定よりも下がってしまうのではないか、という懸念があるようです。

ただ、それ以上に懸念されるのはアフリカ市場全体への影響です。ケニアをはじめ、アフリカ諸国は石油製品を輸入しています。原油価格の上昇の結果、バスやバイクタクシーなどの交通や、元々高いと言われている物流費がさらに上がり、食品などの物価に反映されます。その影響は、可処分所得に占める生活費の割合が比較的高いアフリカでは先進国よりも深刻だと言えます。それが回りまわって、アフリカで事業を行っているスタートアップ企業に苦しい時期が来るかもしれません。しかしながら、コロナ禍もそうでしたが、ペイン(痛み)が強いほど顧客の行動変容が起きやすいので、価値を提供できているスタートアップにとってはチャンスですね。

最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。また次回、現地からアフリカの状況をお伝えできればと思います。

筆者:石田 宏樹(AAIC ケニアオフィス代表)

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